J.S.A.(日本ソムリエ協会)のワインエキスパートやソムリエ資格を取得し、さらなる高みやグローバルな評価を目指して「WSET Level 3 Award in Wines(レベル3)」に挑む方は少なくありません。
しかし、四肢択一の選択問題が中心だったレベル2やJ.S.A.とは異なり、レベル3の本質は「記述式問題(Short Answer Questions)」と「ブラインドテイスティング(2銘柄)」にあります。
暗記した知識をただ引き出すのではなく、「なぜその味わいや品質になるのか」という因果関係を論理的な文章で説明する能力が厳しく問われるためです。
本稿では、レベル3の難易度や合格率の実態をはじめ、海外の合格者が実践している「Specification(出題要綱)」の活用法、記述式問題で満点を狙える「サービス・取り扱い」の稼ぎどころ、そしてブラインドテイスティング(SAT)の攻略法まで徹底的に解説します。
KSK私は、ワインエキスパートを取ってすぐにWSET レベル3を受講し始めました。ワインエキスパートでの知識を維持したまま、ロジカルにワインの勉強をすることができるので、この順がオススメです!
WSETレベル3(Level 3 Award in Wines)を目指す理由とは?
ワインエキスパート・ソムリエ保持者が直面する「最大の壁」
国内のワイン資格であるJ.S.A.ワインエキスパートやソムリエは、膨大な産地名やブドウ品種、歴史的背景を暗記することが合格への近道でした。
しかし、その知識を持ったままWSETレベル3に臨むと、多くの受講生が考え方の違いに驚きます。
レベル3で問われるのは、「ボルドー左岸の主要品種はメルローかカベルネ・ソーヴィニヨンか」といった事実の暗記ではありません。「なぜボルドー左岸ではカベルネ・ソーヴィニヨンが主体となり、それが最終的なワインの酸味・タンニン・熟成可能性にどう影響するのか」という栽培・醸造・気候の相互作用を論理的に説明する力が求められるからです。
「知識はあるのに文章で説明できない」というもどかしさこそが、ワイン有資格者が最初に突き当たる最大の壁となります。
国際的に評価されるWSET最高峰への登竜門
ロンドンに本部を置くWSETの資格体系において、レベル3は上級(Advanced)プログラムに位置づけられています。
この資格を保持していることは、世界中のワインビジネス現場やインポーター、高級レストランにおいて「国際標準の客観的な分析力と知識を備えている」ことの証明となります。さらに、最高峰の資格でありマスター・オブ・ワイン(MW)への道筋でもある「WSET Diploma(ディプロマ)」を受験するための必須要件でもあります。



将来Diplomaディプロマを受験する人はレベル3を持っていることが必要となります。そのための資格試験ということも大事ですが、考え方を学ぶためには、ぜひレベル3でしっかり基礎固めをすることをおすすめします!
WSETレベル3の基本データ(合格率・難易度・評価基準)
グローバル合格率は約50%!なぜ半分が落ちるのか?
WSET本部が公表しているデータによると、レベル3のグローバル平均合格率は約50%前後で推移しています。レベル2の合格率が約85〜90%であることを考えると、難易度が跳ね上がることが分かります。
ここで重要なのは、落ちる原因のほとんどが「Unit 1の記述式問題」にあるという点です。マークシート問題(50問)やテイスティング試験(Unit 2)単体での合格率は決して低くありません。
しかし、記述式問題において「キーワードの不足」や「因果関係の説明不足」により失点を重ね、不合格となってしまう受講生が後を絶たないのが実態です。



合格率が意外と高い試験だからと気を抜いて、記述問題で落とすという人が一定数いるイメージです。しっかりと対策が必要です!
2つの試験ユニット(Unit 1 & Unit 2)と合格基準
試験は以下の2つのユニットで構成されており、両方のユニットで合格点を取得する必要があります。
| ユニット | 試験内容 | 試験時間 | 合格基準 |
| Unit 1(理論) | マークシート50問 + 記述式問題4問 | 2時間 | 各55%以上の正解 |
| Unit 2(実技) | ブラインドテイスティング2銘柄(赤1・白1) | ※上記の2時間の中で実施 | 55%以上の正解 |
また、総合成績は得点率に応じて以下のように評価されます。
- Pass(合格): 55% 〜 69%
- Pass with Merit(良): 70% 〜 84%
- Pass with Distinction(優): 85%以上(理論・実技ともに85%以上が必要)
将来的にディプロマを目指す方や、知識を強固なものにしたい方は、最初からDistinction(85%以上)の獲得を目標に据えて学習計画を組むことを推奨します。
公式推奨の個人自習時間(最低84時間以上)のリアル
公式シラバスでは、スクールでの講義時間(約54時間)に加え、最低84時間以上の個人自習(TQT:Total Qualification Timeで計140時間)が推奨されています。
ただし、これはあくまで英語圏の受講生や効率的な学習を行った場合の目安です。テキストの精読に加え、実質的には100〜150時間程度の自習時間を3〜6ヶ月かけて積み上げることが現実的なスケジュールとなります。
【海外受講生の常識】「Specification(出題要綱)」を最重要の羅針盤にする
海外のトップエデュケーターや合格者の間で必ずと言っていいほど強調されるのが、「Specification(公式出題要綱)」の徹底活用です。
教本(Textbook)を1ページ目から漫然と読み進めるのは、広大な海をコンパスなしで泳ぐようなものです。
WSET公式が発行しているSpecificationには、各章で受講生が到達すべき学習目標(Learning Outcomes)と、試験に出題される範囲の境界線が完全に示されています。
例えば、ある産地において「どのブドウ品種までが試験範囲で、どのマイナー品種は覚えなくてよいか」「気候要因として何を記述させるつもりか」はすべてSpecificationに明記されています。自習の際は常にSpecificationを横に置き、「この学習目標に対して自分は文章で答えられるか」をチェックする軸として活用するのが海外流のスマートな学習戦略です。



逆に言えば、テキストやスペシフィケーション以上のものは出ないので、ちゃんと基礎が試しましょうということです。
【確実に加点する】教本冒頭の「サービス・取り扱い(Storage & Service)」
レベル3の記述問題や選択問題において、最も確実に満点を狙える「超・高コスパ単元」が、教本冒頭で扱われる「Storage and Service(ワインの保管とサービス)」の章です。
産地の気候や複雑な醸造工程とは異なり、実務手順や管理条件は「決まった手順をルール通りに書けば、採点官が部分点を引く余地なく満点を与えるしかない」という特徴があります。
ここで確実に点数を稼ぐことが、理論ユニット合格の強力なセーフティネットになります。
具体例1:スパークリングワインの安全かつ正しい開栓手順
特に記述問題で問われやすいのが、スパークリングワインの開栓手順です。単に「コルクを抜く」ではなく、安全確保と品質維持のための具体的ステップを順番通りに記述できるかが問われます。
- ボトルの冷却: 適切な温度(通常6〜10℃)までよく冷やす(圧力を下げ、急激な泡の噴き出しを防ぐため)。
- ホイルの除去とミュズレ(針金)の解放: ナプキンを当てながらホイルを取り外し、常に親指でコルクを押さえた状態でミュズレの針金を緩める(意図しないコルクの飛び出しによる事故を防ぐ絶対的な安全対策)。
- 抜栓の動作: ボトルを約45度に傾け、コルクではなくボトルの底部をしっかり握って回す。
- ガス圧のコントロール: コルクが押し出される圧力に抵抗しつつ、最後に「プシュー(sigh)」と静かな音を立てて抜栓する。
この一連の動作において、「なぜその作業を行うのか(例:指で押さえる=安全確保のため)」という理由を添えて記述できる状態を作っておくことが重要です。
具体例2:ワインの最適な保管条件
ワインの劣化を防ぐための保管5原則(一定の温度10〜15℃、直射日光の排除、湿度の維持、振動の回避、コルクの乾燥を防ぐ横置き)も、理由とセットで回答できるように準備しておきましょう。
【合否の分かれ目】記述問題(Short Answer Questions)の攻略法3選
レベル3の合否を分ける最大の難所、記述式問題(Short Answer Questions)で点数を残すための実践的テクニックを解説します。
① コマンドワード(指示語)の厳密な読み分け
問題文に使われている「指示語(Command Verbs)」を無視して解答を書くと、どれだけ知識を書いても加点されません。代表的な3つの指示語の違いを叩き込んでおく必要があります。
- Identify(特定せよ): 該当する名称や単語をシンプルに挙げる。(例:主要品種名を1つ答える)
- Describe(描写せよ): その対象の状態や特徴を述べる。(例:冷涼な気候におけるシャルドネの味わいの特徴を述べる)
- Explain(説明せよ / ★最も重要): 「なぜそうなるのか」という因果関係まで踏み込んで書く。
例えば、「なぜこの地域で高い酸味が保たれるのか説明せよ(Explain)」と問われた場合、単に「酸味が維持される」と書くだけでは不十分です。「夜間の気温が著しく低下するため(原因)➔ ブドウの呼吸作用が抑えられリンゴ酸の分解が遅れるため(機序)➔ 収穫時まで高い酸味が保持される(結果)」というように、原因から結果に至るロジックを繋げて初めて満点が付与されます。



少しレベルの高い話ですが、ぜひDiplomaの試験用の指示語の例も見てください。何を問われているのかという国語の問題でもあるので、一気に理解が進むと思います。詳細は以下の記事でまとめています。


② 配点に応じた「原因と結果(Cause-and-Effect)」の文量設計
記述問題の横には、「(3 marks)」や「(5 marks)」といった配点が必ず明記されています。WSETの採点基準は「指定されたキーワードやロジックの要素1つにつき1点」という加点方式です。
つまり、5点満点の問題であれば、文章の中に採点基準となる要素(キーワードや因果関係のステップ)が少なくとも5つ含まれていなければ、物理的に満点を取ることができません。配点を見て「いくつロジックの要素を盛り込むべきか」を逆算し、文章の長さをコントロールする感覚を身につけてください。
③ WSET公式テキストの「指定キーワード」を忠実に使う
WSETの採点官は、世界中で統一された採点ガイドラインに従って採点を行います。そのため、自己流の曖昧な表現や一般的なワイン用語を使うのではなく、教本に登場する特定の専門用語をそのまま文章に組み込むことが極めて重要です。
- 昼夜の寒暖差 ➔ Diurnal range
- 涼しさを与える影響(海風、標高等) ➔ Cooling influence
- 貴腐菌の発生条件 ➔ Humid mornings, warm dry afternoons
- 瓶内二次発酵後のシュール・リー ➔ Lees ageing / Autolysis
これらのキーワードが文章内に含まれているかどうかが、そのまま得点に直結します。
【実技対策】ブラインドテイスティング(SAT)で得点を稼ぐコツ
Unit 2の実技試験では、白ワイン1銘柄、赤ワイン1銘柄の計2銘柄を30分間程度で分析します。
品種を外しても合格できる?SAT採点シートの加点構造
結論から言うと、ブドウ品種や原産地を完全に間違えても、テイスティング試験には合格できます。
WSETのSAT(Systematic Approach to Tasting)の採点構造において、最後の「品種当て」や「産地当て」に割り当てられている配点は全体のごく一部に過ぎません。配点の大半を占めるのは、外観・香り・味わいの各要素(色調、香りの強度、酸味、タンニン、ボディ、アルコール、余韻など)を、SATの定義通りに正確にチェックできているかという記述の精度です。
品種を当てることに神経をすり減らすのではなく、「グラスが示している客観的な特徴」を拾い上げ、SATの用語集に沿って正確にシートへマークしていくことが合格への最善策です。



私のときは、たまたま赤ワインで、澱のある良いワインが出ました。でもお代わりするまで澱に気づかなかったので、余裕がある人は最後にお変わりしても良いと思います笑
「品質評価(Quality Level)」におけるBLICの脳内チェック
テイスティングの最後に求められるのが「ワインの品質評価(Poor / Acceptable / Good / Very Good / Outstanding)」です。
解答用紙に直接「BLIC」という単語を書くことはありません。しかし、脳内で以下の4つの要素をチェックリストとして巡らせる思考プロセスが不可欠です。
- Balance(バランス):酸、果実味、タンニン、アルコール、木樽の要素が調和しているか
- Length(余韻):不快な雑味がなく、心地よい風味が長く持続するか
- Intensity(風味の凝縮度):味わいや香りが薄くなく、しっかりとした主張があるか
- Complexities(複雑性):単一の果実味だけでなく、醸造由来(熟成香、酵母香、樽香)などの多角的な香りの層があるか
例えば、「バランスが良く、余韻も長めで、風味の凝縮感もあるが、香りの層はシンプル(複雑性はない)」と頭の中で整理できれば、根拠を持って「Very Good」を選択することができます。直感で品質を選ぶのではなく、拾い上げた要素から論理的に品質レベルを導き出す練習を重ねてください。


【Distinction獲得】記憶と記述力を鍛える実践的な勉強法4選
アプリ等による単語暗記に頼るのではなく、手紙やノートを使って自分の手でアウトプットする泥臭くも確実な学習法が、レベル3では最大の威力を発揮します。
① アクティブリコールによる「文章アウトプット」トレーニング
テキストを読むだけの受動的な学習では、記述式問題は解けません。一章分を読んだら、テキストを閉じ、白紙のノートに「なぜボルドー右岸はメルロー主体なのか」「キャンティ・クラシコのサンジョヴェーゼの特徴と気候の関係」といったテーマについて、自分の手で文章を書き出す「アクティブリコール」を行います。
言葉に詰まった部分こそが、自分の知識の抜け漏れであり、試験で失点するポイントです。手で書き出すプロセスを通じて、脳内の神経回路が強固になり、本番で迷いなく文章を組み立てられるようになります。
② 特殊ワイン(スパークリング・シェリー・ポート等)の製法フロー可視化
スパークリングワインや酒精強化ワインは、製造工程が複雑で用語も多岐にわたります。これらを文章だけで覚えようとすると混同しやすいため、自作のフローチャート(工程図)として紙に書き起こす方法が効果的です。
- シャンパーニュの瓶内二次発酵〜デゴルジュマンまでの流れ
- シェリーにおけるソレーラシステムの構造と、フィノ(生物学的熟成)とオロロソ(酸化熟成)の分岐点
- ポートワインの発酵停止(アルコール添加)のタイミング
工程図を一度自分の手で描いておくことで、製造手順を問う記述問題が出題された際に、脳内の図を再生するようにスムーズに記述できるようになります。
③ 「白地図トレーニング」で気候・地理と品種を直結させる
レベル3では、世界の主要産地の地理的要因(山脈、河川、海洋の影響)とブドウ栽培の連動が深く問われます。
市販の白地図やプリントアウトした地図を用意し、以下の要素をご自身の手で書き込んでいきます。
- 主要アペラシオンの位置と境界
- 山脈(例:ヴォージュ山脈がアルザスにもたらす雨陰効果)や河川(例:シロ an, ガロンヌ川がボルドーにもたらす湿度と貴腐菌)
- 各地域で栽培される主要品種と気候の区分(冷涼・温暖・地中海性・内陸性など)
地理的情報と気候・栽培ロジックを視覚的に結びつけておくことで、産地ごとの特徴を問う応用問題への対応力が格段に高まります。
【Q&A】WSETレベル3に関するよくある疑問
Q1. 記述式問題(Short Answer)は、どれくらいの文章量とレベルで書くべき?
A. ダラダラとした長文ではなく、「WSET指定の専門用語を含む簡潔な論理文」を配点に応じた要素数で書く必要があります。
美しい文章表現や文学的な形容詞は採点対象になりません。「Aという原因がある(1点)➔ これによりBという影響が生じる(1点)➔ したがってワインの味わいはCとなる(1点)」のように、箇条書きに近い形で要素とロジックを明瞭に繋げた文章が最も高い評価を得ます。
Q2. ブラインドテイスティング(SAT)で品種や産地を完全に外しても合格できる?
A. 結論として、十分に合格できます。
前述の通り、品種や産地の正解に割り当てられている配点はわずか数点です。外観、香り、味わいの各項目でSATの語彙を正確にマークし、品質評価に対する論理的な根拠づけができていれば、品種を完全に外していてもUnit 2で55%以上の高得点を取ることが可能です。
Q3. 英語での受験と日本語での受験、どちらが有利?
A. 基本的には、最も思考と記述がスムーズに行える言語(日本語受講者であれば日本語)を選ぶのが無難です。
日本語受験であっても、テキストの和訳精度は高く、WSET指定の専門用語(「昼夜の寒暖差」「冷却効果」など)を正しく使えていれば不利になることはありません。ただし、将来的に最高峰の「WSET Diploma(完全英語での試験)」を受験することが確定している場合は、レベル3の段階から英語テキスト・英語受験に慣れておくという戦略も非常に有効です。



将来的にDiplomaを受験するのでしたら、英語で受けることがオススメです。しかし、英語コースは平日のみなど、受講できるコースの影響もあると思うので、受けやすいコースを受ければいいと思います。英語力に関する記事は以下でまとめていますので、ぜひご覧ください!


Q4. ワインエキスパートやソムリエ保持者であれば、公式の自習時間(84時間)より短縮できる?
A. 産地名や品種の暗記時間は短縮できますが、全体の自習時間を極端に削ることは危険です。
J.S.A.保持者は基礎知識があるため、教本を読むスピードは初学者より格段に早いです。しかし、その分余った時間を「記述問題でロジックを文章化する書き出し演習」や「WSET基準に合わせたテイスティングの補正」に充てる必要があります。
単に暗記を省略するのではなく、知識を「WSET式の記述回答」へ変換する訓練に時間を使うことが必要です。
まとめ&さらなる高み(ディプロマ)へ向けて
WSETレベル3は、単に知識をテストするための試験ではありません。この試験の勉強を通じて身につく「ワインのスタイルや品質を、気候・栽培・醸造の根拠に基づいて客観的に説得力をもって説明する力」は、ワイン愛好家としても、ワイン業界のプロフェッショナルとしても、一生ものの財産となります。
グローバル合格率約50%という数字に怯える必要はありません。Specificationを羅針盤とし、高コスパ単元であるサービス実務を確実に押さえ、日々の学習で「自分の手でロジックを書き出す」演習を積み重ねれば、確実にDistinction(優)での合格を手に入れることができます。
レベル3という大きな壁を突破した先には、世界中のトップソムリエや醸造家たちと対等に語り合える視点と、最高峰ディプロマへの扉が広がっています。ぜひご自身の知識を論理的な思考へと昇華させ、この素晴らしい挑戦を楽しんでください。



その前にレベル2を受けたいという方、その先のディプロマまで知りたいという方はぜひ次の記事をご覧ください!
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