【WSET Diploma D2対策】アメリカ市場の壁「スリーティアシステム(Three-Tier System/三層構造)」を完全攻略!

アメリカの大都市の写真

WSET DiplomaのD2(Wine Business / ワインビジネス)において、多くの受験生の難所が、アメリカ合衆国における独自の酒類流通制度である「スリーティアシステム(Three-Tier System / 三層構造)」です。

アメリカは世界最大のワイン消費国であり、国内の生産者にとっても、アメリカ市場への輸出を目指す海外の生産者にとっても非常に魅力的な市場です。しかし、需要の増加に国内生産が追いついていないにもかかわらず、州ごとに制定された厳格で複雑な法律が、アメリカでのワインビジネスを非常に困難なものにしています

本記事では、D2の公式テキストに沿って、この「スリーティアシステム」の歴史的背景、3つの階層の役割、州ごとの法律の違い(コントロール・ステートとオープン・ステート等)、そして現代の課題とDTC(Direct-to-Consumer)の台頭まで、試験で求められる論点を網羅的に徹底解説します。

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スリーティアシステムについては、日本語の文献も少なく、英語でいきなり理解することが非常に困難にも関わらず、過去には何回か出題されている問題です。私も英語でいきなり読んだら全く理解できなかったので、まずは最初の理解に向けて、その助けになればと思い、この記事を書いております。

目次

第1章:スリーティアシステム(三層構造)とは? 基礎知識と歴史的背景

スリーティアシステムを理解するためには、まず「なぜこのような複雑で非効率に見える制度が生まれたのか」という歴史的背景を知る必要があります。WSETの記述式試験では、現状のシステムを説明するだけでなく、その「導入目的」に触れることで解答に深みが出ます。

禁酒法(Prohibition)とその撤廃

アメリカでは1919年から1933年にかけて、ボルステッド法(Volstead Act)と呼ばれる法律により、自家製ワインや宗教的・医療目的のワインを除き、アルコールの生産、販売、消費が全面的に禁止されていました。これが有名な「禁酒法」です。

そして、1933年に禁酒法が撤廃された際、アメリカ政府は禁酒法以前の「サルーン(Saloon)」と呼ばれる酒場がもたらした、ギャンブル、売春、犯罪、そして泥酔といった社会問題への逆戻りを防ぐことを目的として、新たな流通制度を導入しました 。これが「スリーティアシステム」の始まりです 。

スリーティアシステムの主な導入目的

この制度が設立された背景には、主に以下の3つの強い動機があります。目的として書く際にはそれぞれの項目を挙げられるようにする必要があります。

タイド・ハウス(Tied Houses)の防止: 禁酒法以前、多くの酒場は特定のビール醸造所や蒸留所からのみ商品を仕入れることを義務付けられた「タイド・ハウス(専属酒場)」として機能していました。生産者が小売店を支配するこの構造を防ぐため、生産者(サプライヤー)から小売業者への直接販売を禁止しました 。これにより、生産者による市場の独占と、不当な価格上昇を防ぐ狙いがありました。

税金の確実な徴収: 間に流通業者(ディストリビューター)という階層を挟むことで、州政府にとって酒類市場の規制や税金の徴収がはるかに容易になるというメリットがありました。

雇用の創出: 新たな流通階層(ビジネス)を作ることで、各州に新しい雇用を生み出すという経済的メリットも意図されていました。

3つの階層(Tier)の役割とクロスオーナーシップの制限

スリーティアシステムは、その名の通り以下の3つの階層に分かれています。

1.サプライヤー(Supplier): 生産者(Producers)や輸入業者(Importers)が含まれます。
2.ディストリビューター(Distributor): 卸売業者(Wholesalers)やブローカー(Brokers)が含まれます。
3.リテーラー(Retailer): スーパーマーケットやワイン専門店などのオフ・トレード(Off-premises licencees)と、バーやレストランなどのオン・トレード(On-premises licences)が含まれます。

このシステムの最も重要な原則は、「各階層間のクロスオーナーシップ(交差所有)が厳格に制限、または完全に禁止されている」という点です。つまり、基本的には上位2つの階層(サプライヤーやディストリビューター)が小売業者(リテーラー)を所有することはできません

ただし、サプライヤー層とディストリビューター層の間の分離は後から発展したものであり、完全に普遍的なルールというわけではありません。例えば、生産者が同時に輸入業者になること(例:E & J Gallo)は可能ですが、卸売業者になることはできません。逆に、卸売業者が輸入を行うことはできますが、自らワインを生産することはできません(例:Republic National Distributing Company)。 しかし大原則として、生産者は卸売業者をバイパスして直接小売業者にワインを販売することは禁じられています。

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WSETの公式テキスト構造を分析すると、D2試験において「歴史的背景(禁酒法)」を問う設問は直接的には少ないものの、「なぜ生産者にとってアメリカ市場の利益率が圧迫されるのか」という課題を論じる際、タイド・ハウス防止という大義名分のもとでディストリビューターを通すことが法的に義務付けられている(=回避できないマージンが発生する)ことを論理の出発点にすると、極めて説得力の高い論文になります。暗記にとどまらず、「歴史が現在のコスト構造を決定づけている」という因果関係を意識することが高得点のカギです。

第2章:州ごとに異なるアメリカの法律:Control, Open, Franchise States

アメリカのワインビジネスを理解する上で、最も厄介であり、かつD2試験で頻出の論点となるのが「州ごとの法律の違い」です。

1933年の禁酒法撤廃に伴う名残として、連邦政府はアルコール飲料の販売に関する管理権限を各州に委譲しました。このため、スリーティアシステムの枠組みの中であっても、各州は全く異なる複雑な法律を持つことになり、酒類企業は州ごとに「コンプライアンス・オフィサー(法令遵守担当者)」を配置する必要に迫られています 。

また、禁酒運動(Temperance movement)の圧力により、かつては郡(County)レベルでアルコールの製造・流通・販売を固く禁じる「ドライ・ステート(禁酒州)」が存在しました。現在、完全にドライな州は存在しませんが、アメリカ全土には依然として「ドライ・カウンティ(禁酒郡)」が一部残っています 。

州の法律は、スリーティアシステムの規制の度合いによって、大きく3つのカテゴリーに分類されます(ただし、多くの州で境界線が曖昧な部分もあることには留意が必要です)。

コントロール・ステート(Control States / 統制州)

コントロール・ステートとは、州政府自身がスリーティアの1つ以上の階層において独占権を握っている州のことです。一般的に、これらの州でライセンスを持った唯一のオフ・トレード小売業者は「州政府そのもの」ですが、州によってはスピリッツ(蒸留酒)のみを統制し、ワインは例外とするなど様々なケースがあります。 現在、アメリカには17のコントロール・ステートが存在し、以下の具体的な規制例があります。

アイダホ州(Idaho): アルコール度数16%を超える飲料のオフ・トレード販売を州が独占しています。

ミシガン州(Michigan): 卸売りのみ、かつスピリッツ(蒸留酒)のみを州が独占しています。

ニューハンプシャー州(New Hampshire): ビールとワインは食料品店やコンビニエンスストアでの販売を許可しており、同時に州営のパッケージショップ(包装済みアルコール飲料を売る店)を運営しています。また、州営店が扱わないような小規模ブランドに特化した民間のオフ・トレード許可も少数ながら認めています。

ペンシルベニア州(Pennsylvania): アメリカで最も規制が厳しい州の一つです 。すべてのスピリッツは
州営のパッケージショップで販売され、オン・トレード販売が許可されているバーやレストランであっても、仕入れは州営パッケージショップから行わなければなりません

オープン・ステート(Open States / 自由州)

オープン・ステートは、アルコールの販売に州が直接関与しない州です。州政府の介入は最小限に抑えられており 、サプライヤー(生産者・輸入業者)とディストリビューター(卸売業者)は、ブランドの販売や流通に関する契約を自由に結んだり、解消したりすることができます 。

フランチャイズ・ステート(Franchise States)

州が直接販売に関与しないもう一つのカテゴリーとしてフランチャイズ・ステートが挙げられます 。D2の学習において極めて重要なのが、この州に存在する「フランチャイズ法(Franchise Laws)」の影響です。 オープン・ステートとは異なり、フランチャイズ・ステートではディストリビューターの権利が法律によって強固に守られています。その結果、ディストリビューターとの販売契約を破棄することは非常に困難です 。たとえ生産者が「このディストリビューターは自社のワインを適切に扱ってくれていない」と不満を持ったとしても、別のディストリビューターに簡単に乗り換えることができないという深刻なリスクを抱えています。

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州ごとの法規制の違いを論じる際、「コントロール・ステートは州政府が独占している」と一言で済ませてしまう受験生が多いですが、これは非常にもったいないポイントです。テキストで紹介されている「ペンシルベニア州の厳格さ」や「ニューハンプシャー州のワインに対する寛容さ」といった具体例を引き合いに出すことで、ワインビジネスの複雑さを深く理解していることをアピールできます。

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また、Route to Market(市場への参入方法)を問われた際は、フランチャイズ・ステートにおける「契約解除の困難さ」をビジネスリスクとして提示できるかどうかが、トップレベルの評価を得るための分水嶺となります。

第3章:スリーティアシステムのメリットとデメリット(強みと弱み)

D2試験で頻繁に求められるのが、ビジネス環境の「分析(Evaluate)」です。スリーティアシステムについては、様々な議論が交わされており、その長所と短所は広く激しい論争の的となっています 。受験生は、このシステムを一概に「悪」と断じるのではなく、それぞれの立場におけるメリットとデメリットを客観的に論じられなければなりません。

スリーティアシステムのメリット

システムを擁護する立場からは、以下のような強力なメリットが提示されます。

莫大な税収の確保: ビジネスの3つの階層が維持されることで、それぞれの階層で税金が課されるため、州政府にとって非常に大きな税収を生み出します。

高度な物流網の提供: ディストリビューター層を維持する大きな利点は、彼らが物流の効率化に特化していることです 。最大手のディストリビューターは、アメリカ全土の広大なエリアにサービスを提供しています。

営業・マーケティング力の代行: 巨大なディストリビューターは訓練された営業部隊やマーケティング資料を提供してくれます。もし生産者が自力でこれらを用意しようとすれば、時間、労力、資金の面で莫大なコストがかかりますが、ディストリビューターを通すことで、効率的に自社製品の露出を高める潜在的な可能性があります。

現代の課題とデメリット:ディストリビューターの「巨大化・集約(Consolidation)」

一方で、現代のアメリカワイン市場における最大の懸念事項が「企業の集約(Consolidation)」です。近年、アメリカのワイナリー数は大幅に増加していますが、同時に小規模ワイナリーの買収などを通じて、大手ワイン生産会社(コングロマリット)もますます巨大化しています。 この巨大化の恩恵は、システム全体で大手企業に有利に働きます。

コングロマリットと大手卸売業者の蜜月: 巨大な生産者(コングロマリット)は、大手ディストリビューターに対して魅力的な商品のラインナップを一括で提供できます(これは輸出市場の輸入業者に対しても同様です)。大手ディストリビューターから見れば、手作業での地道な営業(hand-selling)をあまり必要としない、需要の高いブランドの数々を、たった一つの大手生産者と取引するだけで手に入れることができるため非常に効率的です。

小売業者の利便性: さらに、スーパーなどの大規模小売業者(Multiple retailer)にとっても、わずか1社か2社の大手ディストリビューターと取引するだけで、顧客が求める幅広い商品ラインナップを揃えることができるというメリットがあります。

【小規模生産者の苦境】 このように「大手生産者・大手卸売・大手小売」のエコシステムが完成してしまうと、割を食うのは小規模な生産者です。生産量の少ないブティックブランドは、大手ディストリビューターに相手にされないため、小規模で専門的なディストリビューターを探す必要があります。しかし、こうした小規模ディストリビューターは複数の州をまたぐような広範囲のカバー力を持たず、展開できる範囲が限定的になってしまいます。 さらに、前述した「フランチャイズ法」により、一度契約した小規模ディストリビューターのパフォーマンスが悪くても契約を打ち切れないという八方塞がりの状態に陥るリスクもあります。

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D2の記述試験で「Consolidation(集約・統合)」という単語はキラーキーワードになります。単に「卸売業者が減って独占状態になっている」と書くのではなく、「なぜ大手が大手を好むのか(取引コストの削減、hand-sellingの不要化)」というバリューチェーンの視点から説明することで、ビジネスパーソンとしての高い分析力を採点者に示すことができます。ワインビジネスは美味しいワインを造るだけではなく、どう棚に並べるかの競争であることを強調しましょう。

第4章:現代の抜け道「DTC(Direct-to-Consumer)」とその限界

前章で述べたディストリビューターの巨大化と統合(Consolidation)は、小規模生産者にとって厳しい環境を生み出しましたが、同時にそれが起爆剤となり、消費者への直接販売(Direct-to-Consumer / DTC)カテゴリーにおける活動を刺激しました。 現在、アメリカでは州ごとに徐々にですが規制が緩和されており、消費者の自宅への配送や、セラードア(ワイナリーでの直売)といったDTC販売が広がっています。

一部の州では、州内および州外のワイナリー(ビールやマイクロディスティラリー等のアルコール生産者も含む)に対し、条件付きではあるものの、オフ・トレードまたはオン・トレードのライセンス等を通じて消費者へ直接販売することを許可するようになってきています。

DTCは「魔法の杖」ではない

DTCは、スリーティアシステムに参加するだけの生産ボリュームを持たない小規模ワイナリーにとって非常に人気のあるルートです。間に卸売業者や小売業者を挟まないため、マージンを自社の利益として確保できるという魅力があります。

しかし、このDTCルートが「決してコストフリーではない」ことは強く警告されています。DTCを成功させるためには、以下のような多大なコストと負担が伴います。

労働力と広告費(Labour, Advertising): 自力で顧客を見つけ、注文を処理し、梱包するスタッフの人件費や、ブランドを知ってもらうためのマーケティング費用がかかります。

配送料(Shipping): 割れ物であり重量のあるワインの個別配送は、物流コストを大きく押し上げます。

コンプライアンス管理の負担(Compliance): 最も厄介なのが、予測不可能で複雑な「各州の規制の枠組み」に従わなければならないという重荷です。前述の通り、アメリカでは州ごとに法律が異なり、現在でも「他州で購入したワインを州境を越えて持ち込むこと(Interstate Shipping)」を依然として許可していない州も存在します。また、DTCが許可されている州であっても、直販の許可申請(ライセンス料の支払い)、複雑な販売税・酒税の申告、年間販売数量の上限管理など、州法(Legislation)は常に進化しており、全ての州がワイナリーからの直接配送を許しているわけではありません。

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受験生がRoute to Marketの提案を行う際、「小規模ワイナリーだからDTCを使えば良い」と単純に結論づけてしまう解答が散見されます。D2の試験官が求めているのは、解決策の提示だけでなく「その解決策に伴うリスクやコスト」の評価です。DTCを提案する場合は、「中間マージンは省けるが、各州のコンプライアンス遵守にかかる事務コストや、顧客獲得のためのマーケティング費用が自社にのしかかる」というトレードオフ(二律背反)の構造を必ず併記してください。この多面的な考察こそがDiplomaレベルの証となります。

まとめ:D2試験に向けた学習の総括

ここまで、WSET D2テキストに記載されているアメリカの「スリーティアシステム」の全貌を詳しく解説してきました。最後に、試験に向けた重要ポイントを総括します。

1.歴史の理解: 禁酒法撤廃(1933年)を機に、タイド・ハウス防止、税収、雇用目的で作られた「生産者・卸売業者・小売業者」の分業制度である。

州法(State Law)の複雑さ: 連邦ではなく州ごとに権限があり、Control(統制州)、Open(自由州)、Franchise(フランチャイズ州)の3つに大別される。ペンシルベニア州のような厳格な例や、契約解除を阻むフランチャイズ法の影響を理解する。

大手の寡占(Consolidation): ディストリビューターの巨大化により、大手生産者と大手小売にはメリットがあるが、小規模生産者は市場へのアクセスが極めて困難になっている。

DTCの可能性と限界: スリーティアを回避する抜け道としてDTCが成長しているが、州境を越える配送の法規制(コンプライアンス)や自社負担のマーケティング・配送コストという新たな壁が存在する

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アメリカ市場は、法律の壁と資本力の壁が複雑に絡み合う世界で最もユニークな市場です。WSET Diploma D2の試験では、この複雑な状況を「自社のワインをどのルートで、どうやって利益を出して売るべきか」という実践的なビジネス課題に落とし込んで考える力が求められます。本記事の論点をしっかりと整理し、論理的で説得力のある解答を目指して学習を進めてください!

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この記事を書いた人

とある企業の会社員
突然ワインに目覚めて、その奥深さにハマる。
WSET Lv.3のほか、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナルも保有し、現在は、WSET Diploma(WSET ディプロマ)に挑戦中であり、最終試験の結果待ちまで来ている。
フランス留学経験もあり、10か国100か所以上のワイン関連の自治体を巡った経験を基に、ワインの情報や勉強をもっと気軽にできるよう、世界のワインの情報を統合してお届けできるようサイトを運営していきます。

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