Vitis International Variety Catalogue(VIVC)とは、世界中のブドウ品種とその遺伝的情報、栽培データ、シノニム(異名)などを集約したグローバルなオンライン・カタログです。ドイツのユリウス・キューン研究所(Julius Kühn-Institut)が管理しており、ブドウの研究者、栽培家、ワイン醸造家にとって欠かせない情報源となっています。
このデータベースは、1980年代に国際ブドウ・ワイン機構(OIV)と協力してスタートし、現在では10,000を超える品種データを収録しており、世界で最も包括的なブドウ品種のリファレンスとして評価されています。
1.VIVCの主な目的
1.1 品種の標準化
同じブドウでも地域によって異なる名前で呼ばれる問題(シノニム問題)を整理し、国際的な名称の整合性を提供します。たとえば、Tempranillo(テンプラニーリョ)がTinta Roriz(ティンタ・ロリス)とも呼ばれることがあるように、多数の別名を整理・網羅しています。
1.2 遺伝資源の保存と管理
VIVCは、各国の遺伝資源保存機関(germplasm collections)と連携して、品種の系統、起源、クローンの違いなどを記録・追跡しています。これにより、絶滅危惧品種の保存や交配研究にも活用されます。
1.3 国際比較と研究支援
学術研究や新たな交配種の開発に向け、遺伝的類縁性、栽培条件、耐病性などの情報を比較可能な形式で提供します。
2.収録されている情報の構成
VIVCのデータベースには、以下のような情報が各品種ごとにまとめられています。
- 正式名称(accepted name)
- 原産国
- シノニム一覧
- クローン情報
- 栽培特徴(萌芽・成熟時期・樹勢など)
- DNAプロファイル(SSRマーカー)
- 参考文献リンク
- 保存されている収集機関とアクセス情報
3.利用方法と検索機能
VIVCは完全無料で、誰でもWebブラウザからアクセスできます。公式サイトは以下の通りです:
👉 https://www.vivc.de/
検索機能の特徴:
- 名前による検索(和名やラテン名、シノニムも可)
- 原産国によるフィルタリング
- 性質(果皮色、用途)での分類
- クローンや突然変異種の比較
ワイン関係者にとって特に便利なのは、「ある品種がどこの国で何と呼ばれているのか」や、「別の品種との混同があるか」などを一目で確認できる点です。
4.実務における活用例
4.1 生産者・インポーター
輸入時に名称表記のブレを防ぐため、VIVCを参照して正確な品種名を確認します。たとえば、「Monastrell」と「Mourvèdre」が同一品種であることを把握するのに役立ちます。
4.2 ワインライター・ソムリエ
シノニムや由来の解説、品種の系譜を解説する際にVIVCは強力な情報源です。
4.3 醸造家・研究者
交配品種の親品種を確認したり、病害への耐性に関する遺伝情報を得たりと、研究開発に活用されています。
5.他のデータベースとの違い
データベース名 | 特徴 | 管理主体 |
---|---|---|
VIVC | 世界最大級のブドウ品種カタログ、無料で利用可 | Julius Kühn-Institut |
Pl\@ntGrape | フランスのブドウ品種に特化、ビジュアル豊富 | INRAE(フランス国立農業研究所) |
Viniflora | 酵母・バクテリアのカタログ | Chr. Hansen |
OIVデータベース | OIV公式の品種・用語集 | 国際ブドウ・ワイン機構 |
VIVCは品種の国際的比較において最も有用であり、学術研究・実務どちらにも対応した汎用性が評価されています。
6.将来的な展望と課題
6.1 クローン情報の充実
現在のVIVCでは、限られた品種にしかクローン情報が提供されていません。今後の更新では、ピノ・ノワールのような多様なクローンが存在する品種における精密な分類が期待されています。
6.2 多言語化の整備
現在は英語中心のUIとなっており、今後は多言語(特にスペイン語・中国語・日本語など)での展開が求められています。
6.3 民間データベースとの連携
VivinoやWine-Searcherといった消費者向けデータベースとのAPI連携などがあれば、プロと一般の間の情報格差を縮めることが可能です。
まとめ
Vitis International Variety Catalogue(VIVC)は、ワインに関わるあらゆる人々にとって欠かせない情報資源です。
品種の同定、シノニムの確認、遺伝的背景の理解において、他の追随を許さない網羅性と信頼性を持ちます。
情報収集の際は、VIVCを一度チェックしてみることをおすすめします。
ワインの世界をより深く、正確に理解するための「グローバル標準」ともいえる存在です。
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