オンダラビ・ベルツァ(Hondarrabi Beltza)│バスク地方の伝統を受け継ぐ希少な赤ワイン用ブドウ品種

オンダラビ・ベルツァ(Hondarrabi Beltza)│バスク地方の伝統を受け継ぐ希少な赤ワイン用ブドウ品種
目次

1. 概要

オンダラビ・ベルツァ(Hondarrabi Beltza)は、スペイン北部バスク地方を原産とする赤ワイン用のブドウ品種です。微発泡性白ワイン「チャコリ(Txakoli)」で知られる地域で栽培される、数少ない赤ワイン用品種の一つであり、その名の通り「オンダラビ・ズリ(白)」と対になる「黒(ベルツァ)」の存在です。

バスク語で「ベルツァ(Beltza)」は「黒」を意味し、オンダラビ・ベルツァから造られるワインは、淡い色合いながらスパイシーで野性的な風味を持ち、地元では伝統的な食文化とともに親しまれてきました。近年ではバスクワインの再評価とともに、この品種の持つポテンシャルが注目を集めています。

2. 名前の由来

「オンダラビ・ベルツァ(Hondarrabi Beltza)」は、バスク語の語源を持つ名前です。

  • Hondarrabi(オンダラビ):バスク地方の古語で「ブドウ」や「ワイン」を指す言葉、またはギプスコア県の港町「オンダリビア(Hondarribia)」に由来するという説があります。
  • Beltza(ベルツァ):バスク語で「黒い」という意味で、赤ワイン用品種に使われます。

つまり、「オンダラビ・ベルツァ」とは「オンダリビアの黒ブドウ」または「黒いオンダラビ」という意味を持ちます。

3. 栽培

オンダラビ・ベルツァは、冷涼で湿度の高いバスク地方の海洋性気候に適応してきたローカルな品種です。果皮が薄く、病害にやや弱いため、丁寧な畑の管理が求められますが、適地適作のもとでは高品質なワインを生み出します。

  • 萌芽(budding):やや遅め。春の霜害のリスクは比較的低いですが、湿度には注意が必要です。
  • 成熟(ripening):中~遅め。10月中旬頃に収穫されることが多いです。
  • 樹勢(vigour):中程度で、管理しやすい品種です。
  • 収量(yield):中程度。過熟に注意する必要があります。
  • 病害抵抗性:うどんこ病や灰色かび病にやや弱く、湿潤な環境下では防除が重要です。
  • 気候適性:冷涼な大西洋性気候に適しており、沿岸部の風や霧にもある程度耐性を持ちます。

その性質から、オンダラビ・ベルツァは手作業での管理が必要な伝統的な品種といえますが、近年のテロワール重視のワイン造りの流れにおいては、土地の個性を表現する重要な要素として再評価されています。

4. 味わい

オンダラビ・ベルツァから造られる赤ワインは、色調が比較的淡く、繊細でフレッシュな味わいを持っています。タンニンは控えめですが、酸がしっかりしており、スパイスやハーブ、土っぽさなど、野趣あふれる個性が光ります。

  • 外観:ルビーから明るめのガーネット色。ピノ・ノワールのような透明感があります。
  • 香り:ラズベリーやクランベリーなどの赤系果実、黒コショウ、タイム、ドライハーブ、土や枯れ葉などの香りが広がります。
  • 味わい:中程度のボディで、軽やかな果実味としっかりとした酸が特徴です。タンニンは控えめで、飲みやすさがあります。ワインによっては少し発泡感を残していることもあります。
  • 熟成:基本的にはフレッシュな若飲みスタイルが多いですが、一部の生産者は樽熟成を取り入れ、複雑さを与えています。
  • ペアリング:チョリソーやイベリコ豚、炭火焼きの魚料理、バスク風煮込み(トマトベース)などとの相性が良く、地元の料理文化に根ざした味わいです。

5. 主な生産地

オンダラビ・ベルツァは、スペイン・バスク地方のチャコリ産地で主に栽培されています。以前はほとんど見られなかった赤ワインの生産が、近年徐々に増加傾向にあります。

DOチャコリ・デ・ビスカヤ(Bizkaiko Txakolina)

赤ワインの生産量が最も多いDOで、オンダラビ・ベルツァを主体とした赤ワインやロゼワインが増えています。果実味豊かで親しみやすいスタイルが多く見られます。

DOチャコリ・デ・ゲタリア(Getariako Txakolina)

この地域でも少量ながらオンダラビ・ベルツァを使用した赤ワインが造られており、微発泡性のロゼワインなども人気です。

DOチャコリ・デ・アラバ(Arabako Txakolina)

内陸部に位置するため、よりしっかりとした構造を持ったワインが生まれやすい傾向にあります。近年は実験的なワイン造りにも取り組まれています。

これらの地域以外ではほとんど栽培されておらず、極めてローカルな品種といえます。

6. 代表的なシノニム

オンダラビ・ベルツァは、他の品種と混同されていた歴史があり、以下のようなシノニムや混同品種名が存在します。

シノニム名名称の由来・背景主な生産地
Hondarrabi Beltza(オンダラビ・ベルツァ)バスク語での正式名称。DOでの認可名。スペイン・バスク地方
Bordeleza Beltza(ボルデレサ・ベルツァ)バスク語で「黒いボルドー種」を意味し、カベルネ・フランやメルローと混同された歴史ありバスク地方(古称)
Cabernet Franc(カベルネ・フラン)遺伝子的には別種だが、外観と香りが類似していたため混同されることが多かった。フランス(誤認)
Fer Servadou(フェール・セルヴァドゥ)同様に混同されたことのある南西フランスの赤品種。南西フランス(誤認)

近年のDNA研究により、オンダラビ・ベルツァは独自の品種であることが確認されており、地元品種としての価値が改めて見直されています。


おわりに

オンダラビ・ベルツァは、スペイン・バスク地方という限られた地域でしか見られない貴重な赤ワイン用ブドウ品種です。その軽快でスパイシーな味わいは、地元の料理と完璧に調和し、近年ではナチュラルワインやミニマル・インターベンションといった潮流とも親和性を高めています。

まだ日本ではあまり流通していないものの、個性的で地域性の強いワインを求める方にとって、オンダラビ・ベルツァの赤ワインは新たな発見となるはずです。ぜひ、機会があればチャコリの赤ワインに挑戦してみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

とある企業の会社員
突然ワインに目覚めて、その奥深さにハマる。
WSET Lv.3のほか、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナルも保有し、現在は、WSET Diploma(WSET ディプロマ)に挑戦中。
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