ハーシュレヴェリュー(Hárslevelű)│トカイを彩る香り豊かな白ブドウ品種

ハーシュレヴェリュー(Hárslevelű)│トカイを彩る香り豊かな白ブドウ品種
目次

1. 概要

ハーシュレヴェリュー(Hárslevelű)は、ハンガリーを代表する白ワイン用ブドウ品種の一つで、特に「トカイ・アスー(Tokaji Aszú)」などの貴腐ワインに使用される重要な品種です。名前の「Hárslevelű」はハンガリー語で「シナノキの葉(Linden leaf)」を意味し、その名のとおり、芳香性に富んだアロマを持ちます。

トカイ地方では、同じく主要品種であるフルミントとブレンドされることが多く、果実味や香りの華やかさ、柔らかさをワインにもたらす役割を果たしています。辛口から甘口まで幅広いスタイルのワインに仕立てることが可能で、香り高く、繊細な味わいが特徴です。

2. 名前の由来

「ハーシュレヴェリュー」という品種名は、ハンガリー語で「Hárs=シナノキ」「levelű=葉の」と分解され、「シナノキの葉のような」という意味になります。この名前は、ブドウの葉の形がシナノキに似ていることに由来しているとされます。

また、シナノキの花のような芳香を持つことから、その香りを連想して名づけられたとも言われており、いずれにしても植物的な特徴と香りにちなんだ名称となっています。

3. 栽培

ハーシュレヴェリューはフルミントと比較するとやや繊細な栽培特性を持っていますが、適切に管理すれば高品質なブドウを生み出すことができます。特に貴腐菌の影響を受けやすく、トカイ・アスーに適した品種のひとつです。

栽培特性

  • 萌芽(budding):中庸。早すぎず遅すぎず、安定した展開を見せます。
  • 成熟(ripening):やや遅め。長い秋が必要で、貴腐の発生を促します。
  • 樹勢(vigour):中程度。過剰な生育は抑えやすく、バランスの取れた管理が可能です。
  • 収量(yield):中〜高収量。年によってムラが出る傾向があり、品質重視の管理が求められます。
  • 病害耐性:うどんこ病や灰色カビにやや弱く、注意が必要です。
  • 気候適性:温暖で霧の多い地域に適しており、トカイの気候に理想的です。

ハーシュレヴェリューは果皮がやや薄いため、貴腐菌(Botrytis cinerea)の影響を受けやすく、貴腐ワインの原料として非常に適しています。

4. 味わい

ハーシュレヴェリューの最大の特徴は、その芳香性です。辛口ワインであってもアロマティックで、ライムブロッサム(菩提樹の花)、アカシア、白桃、蜂蜜、ミントなどの香りを豊かに持ちます。

辛口スタイルの特徴

  • 色調:レモンイエローからゴールド
  • 香り:シナノキの花、アカシア、洋梨、ミント、ライムピール
  • 味わい:中程度の酸味に支えられた丸みのある口当たり。香りと果実味が心地よく調和します。

甘口・貴腐スタイルの特徴

  • 色調:深いゴールドから琥珀色
  • 香り:アプリコット、蜂蜜、オレンジピール、トースト、スパイス
  • 味わい:濃厚で豊潤、しかし酸がしっかりと支えているため飲みやすく、余韻も長いです。

貴腐化したハーシュレヴェリューは、トカイ・アスーやエッセンシア(Eszencia)といった高級甘口ワインに使われ、熟成能力も非常に高いことで知られています。

5. 主な生産地

ハンガリー

  • トカイ地方(Tokaj)
    ハーシュレヴェリューの最大の生産地であり、トカイ・アスーや辛口白ワインなど様々なスタイルで用いられています。単一品種としても使用されますが、フルミントとブレンドされることが一般的です。
  • エゲル(Eger)、バラトン湖周辺
    トカイ以外でも少量ながら栽培されています。トカイ以外では主に辛口スタイルのワインが造られます。

スロヴァキア

  • トカイ地方の北部エリア(スロヴァキア領)
    ハンガリーと地理的・気候的に連続しているため、同様にハーシュレヴェリューが栽培されており、トカイ様式のワインが造られています。

6. 代表的なシノニム

ハーシュレヴェリューは主にハンガリーで栽培されているため、シノニムの種類はそれほど多くありませんが、いくつかの地域的な呼称や古名が存在します。

シノニム名名称の由来・背景主な生産地
Hárslevelű(ハーシュレヴェリュー)ハンガリー語で「シナノキの葉」ハンガリー(トカイ)
Frunza de tei(フルンザ・デ・テイ)ルーマニア語で「シナノキの葉」。同義語ルーマニア
Lindenblättriger(リンデンブレトリガー)ドイツ語で「シナノキの葉のような」。古い文献に見られるドイツ語圏の資料など
Feuille de Tilleul(フイユ・ド・ティユール)フランス語での直訳名。フランス語資料に見られる

おわりに

ハーシュレヴェリューは、香り高く華やかで、トカイのワインに柔らかさと優美さを加える品種として欠かせない存在です。フルミントの酸味や骨格に対し、ハーシュレヴェリューは香りと果実味でバランスを取る役割を担い、素晴らしいアンサンブルを生み出しています。

辛口でも甘口でも個性が際立ち、近年では単一品種ワインとしても評価が高まっています。ハンガリーワインの奥深さを感じたい方は、ぜひこのブドウ品種に注目してみてください。

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この記事を書いた人

とある企業の会社員
突然ワインに目覚めて、その奥深さにハマる。
WSET Lv.3のほか、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナルも保有し、現在は、WSET Diploma(WSET ディプロマ)に挑戦中。
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