フルミント(Furmint)│トカイを支えるハンガリーの白ワイン用ブドウ品種

フルミント(Furmint)│トカイを支えるハンガリーの白ワイン用ブドウ品種
目次

1. 概要

フルミント(Furmint)は、ハンガリーを代表する白ワイン用ブドウ品種で、特に世界三大貴腐ワインのひとつとして名高い「トカイ・アスー(Tokaji Aszú)」の主要品種として知られています。その高い酸と糖度を蓄える能力により、甘口から辛口まで幅広いワインスタイルを生み出すことができます。

近年では、辛口のフルミントワインにも注目が集まっており、ミネラル感と鮮やかな酸味、白い花や洋梨のようなアロマを持つ洗練された味わいで、国際的な評価も高まりつつあります。

ハンガリー国内ではトカイ地方を中心に栽培されており、スロヴァキアやオーストリア、さらにはニューワールドでも少量ながら栽培例が見られます。

2. 名前の由来

「フルミント(Furmint)」という名前の語源には諸説ありますが、有力な説としては「フロマントー(Fromanteau)」という中世フランス由来の品種名に関連しているというものがあります。この説によれば、フルミントはもともとフランスからハンガリーに導入された可能性があり、その後トカイ地方に根付いたとされています。

ただし、DNA鑑定ではフルミントはハンガリーの土着品種である可能性も高く、スロヴァキアやオーストリアの一部で古くから栽培されてきた記録もあります。いずれにしても、「フルミント」という名称は、少なくとも17世紀にはハンガリー文献に登場しており、長い歴史を持つ品種であることに間違いはありません。

3. 栽培

フルミントは、寒冷から温暖な気候まで幅広い環境に適応できる能力を持ち、特にトカイ地方の火山性土壌や霧の出やすい地形との相性が非常に良いとされています。

栽培特性

  • 萌芽(budding):中庸〜やや遅め。霜のリスクをある程度回避可能です。
  • 成熟(ripening):中庸〜晩熟。秋まで樹上に残して貴腐化を狙うことも多いです。
  • 樹勢(vigour):強めで、収量も比較的高い品種です。
  • 収量(yield):高収量が可能ですが、品質重視の生産者は収量を制限します。
  • 病害耐性:うどんこ病に弱い傾向があり、管理が必要です。
  • 気候適性:冷涼で長い秋を持つ地域に最適。貴腐菌(Botrytis cinerea)を受けやすく、トカイのような条件に適しています。

特にトカイ地方では、秋に湿気を帯びた朝と乾燥した午後が繰り返されることにより、フルミントに貴腐菌がつきやすく、アスーワインの製造に理想的な条件が整っています。

4. 味わい

フルミントは非常に表現力豊かなブドウ品種で、辛口、半甘口、甘口、貴腐ワインなど、幅広いスタイルを持ちます。その味わいは、熟成や醸造法によって変化しますが、以下のような共通点が見られます。

辛口スタイルの特徴

  • 色調:淡いレモンイエローから麦わら色
  • 香り:青リンゴ、洋梨、ライム、白い花、時にナッツやスモーキーなニュアンス
  • 味わい:シャープな酸味とミネラル感が特徴。長期熟成に耐え、時間とともに複雑な味わいに変化します。

甘口・貴腐ワインスタイルの特徴

  • 色調:黄金色から琥珀色
  • 香り:アプリコット、蜂蜜、干し柿、オレンジピール、サフラン
  • 味わい:凝縮感のある果実味とエレガントな酸のバランス。甘さがしっかりしていても、酸のおかげで飲み疲れしません。

トカイ・アスーのような極甘口ワインは、数十年の熟成を経ても美しさを保つ長命なワインとして知られています。

5. 主な生産地

ハンガリー

  • トカイ地方(Tokaj)
    フルミント最大の栽培地であり、世界的にも有名なトカイ・アスーの主力品種です。辛口ワインも増加中で、多様なスタイルが楽しまれています。
  • ソンバトヘイ、バラトン湖周辺
    国内の他のワイン産地でも栽培されており、辛口スタイルのフルミントを中心に生産が行われています。

その他の国

  • スロヴァキア(トカイ地方を共有)
    ハンガリーと国境を接するスロヴァキアでも、トカイ原産地呼称の範囲内でフルミントが栽培されています。
  • オーストリア(ブルゲンラントなど)
    ごく少量が栽培されていますが、国内で大きな存在感は持っていません。
  • オーストラリア、アメリカ
    新世界での栽培はまだ限定的ですが、ブティックワイナリーによる挑戦が始まっています。

6. 代表的なシノニム

フルミントは歴史の古い品種であるため、様々な呼び方が文献や地域で使われてきました。以下に主要なシノニムを表でご紹介します。

シノニム名名称の由来・背景主な生産地
Furmint(フルミント)ハンガリーでの標準名ハンガリー(トカイ)
Féher Furmint(フェア・フルミント)ハンガリーでの別名ハンガリー(トカイ)
Mosler(モスラー)オーストリアでの古称。ドイツ語圏で使われた名称。オーストリア
Sipon(シポン)スロヴェニア語圏での呼称スロヴェニア
Moslavac(モスラヴァツ)クロアチアの一部で使われる名称クロアチア
Tokay(トカイ)英語圏で使われた表記。フルミントを指すこともあるが誤解が多い英語圏の古文献
Zapfner(ツァプフナー)古いドイツ語表記オーストリア、ハンガリー

おわりに

フルミントは、ハンガリーの誇る伝統的な甘口ワイン「トカイ・アスー」の要としての役割を担う一方、近年では辛口ワインの分野でもそのポテンシャルが再評価されつつあります。ミネラル感とキレのある酸味は、世界の白ワインの中でも際立つ個性を放ち、料理との相性も非常に良好です。

甘口派も辛口派も満足できる稀有な品種であり、ワインの多様性と歴史の深さを味わいたい方には、ぜひ一度体験していただきたいブドウ品種です。

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この記事を書いた人

とある企業の会社員
突然ワインに目覚めて、その奥深さにハマる。
WSET Lv.3のほか、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナルも保有し、現在は、WSET Diploma(WSET ディプロマ)に挑戦中。
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