1. 概要
フォンディリョン(Fondillón、フォンディジョンとも)は、スペイン南東部のアリカンテ(Alicante)地方で生産される非常に珍しい甘口〜半甘口の赤ワインです。最大の特徴は、酒精強化されていないにもかかわらず、極めて長い熟成を経た酸化的な風味を持ち、他の強化ワインであるポートやシェリーと同様に「食後酒」として珍重されています。
製法や熟成スタイルが非常に特殊で、しかも生産量が非常に限られているため、「幻のワイン」とも呼ばれることがあります。
2. 歴史的背景と伝説
フォンディリョンの歴史は中世にさかのぼり、15世紀から17世紀にかけてスペイン帝国の黄金時代に王侯貴族に愛されたワインとして知られています。17世紀のフランスの国王ルイ14世が病床で飲んだのがフォンディリョンだったという逸話もあり、かつてはヨーロッパ全土で名声を誇ったワインです。
しかし、19世紀末のフィロキセラ禍によりアリカンテ地方のワイン産業は壊滅的な打撃を受け、フォンディリョンの製法も一部忘れ去られてしまいました。20世紀後半から、数軒の伝統的なワイナリーが復興に乗り出し、再び評価が高まっています。
3. 原産地と気候
フォンディリョンが生まれるアリカンテ(Alicante)DOは、スペイン南東部、地中海に面したバレンシア州に属するワイン産地です。
この地域の気候は、典型的な地中海性気候で、夏は非常に暑く乾燥し、冬は温暖です。年間の降水量は少なく、太陽の日照時間が非常に長いため、ブドウの糖度が高く濃縮された果実が育ちます。
特にアリカンテの内陸部(ヴィニャロポ(Vinalopó)地区など)では昼夜の寒暖差が大きく、芳醇で酸味のバランスの良いブドウが生まれます。
4. 使用されるブドウ品種:モナストレル
フォンディリョンに使用されるのは、モナストレル(Monastrell)というブドウ品種のみです。
- アリカンテ地方のモナストレルは果皮が厚く、糖度が高くなりやすいため、自然な形でアルコール度数が高くなります。
- フォンディリョンでは、完熟から部分的に過熟した状態のブドウを使用し、アルコール度数15%以上のワインを自然発酵のみで得ることが特徴です。
5. 醸造方法と熟成スタイル
フォンディリョンの醸造には、いくつか特筆すべき工程があります。
主な特徴:
- 酒精強化なし:ポートやシェリーとは異なり、アルコールを添加することなく、自然発酵によって15%以上のアルコール度数を実現します。
- 酸化熟成:ワインは伝統的に大樽(通常1,200リットル以上)で熟成され、わずかに空気と接触することで、ナッツやキャラメルのような酸化的な風味が生まれます。
- ソレラ方式の使用もあり:一部の生産者では、シェリーのようなソレラ熟成を用いて風味の一貫性を保ちます。
- 最低10年の熟成:DOの規定により、最低でも10年間の熟成が義務付けられており、それ以上に熟成される場合もあります。
6. フォンディジョンの味わいと特徴
フォンディジョンの味わいは、他の赤ワインや甘口ワインと一線を画します。
香りの特徴:
- 熟したドライプラム
- フィグ(イチジク)
- カラメル
- クルミやヘーゼルナッツ
- ほのかなバルサミコ酢や革、コーヒー
味わいの特徴:
- 中〜高めの酸
- なめらかなタンニン
- フルボディ
- アルコール15〜17%
- 長く複雑な余韻
酸化による深い風味と、ブドウ由来の自然な甘みが融合した、非常に長熟な個性的ワインです。
7. DO規定と熟成要件
フォンディリョンは、アリカンテDOの中でも独自のサブカテゴリとして認められています。以下はその主な規定です:
- ブドウ品種:100%モナストレル
- アルコール度数:15%以上(自然発酵によるもの)
- 酒精強化の禁止
- 最低熟成期間:10年(オーク樽または栗の木の大樽)
- 生産地域:アリカンテDOPの内陸部(主にVinalopó地区)
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