1. 基本情報
シャトー・ムートン・ロートシルトは、フランス・ボルドー地方メドック地区のポイヤック村に位置する世界的に有名なワイナリーです。1855年のボルドー格付けでは第2級に格付けされましたが、1973年に例外的に第1級へ昇格した名門であり、ボルドー五大シャトー(グラン・クリュ・クラッセ)の一角を担います。
- 所在地:フランス ボルドー メドック ポイヤック村
- 格付け:1855年格付け 第2級(1973年に第1級へ昇格)
- 所有者:ロートシルト家(バロン・フィリップ・ド・ロートシルト家)
- 主要品種:カベルネ・ソーヴィニヨン主体、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド
- 年間生産量:約20万本(ヴィンテージによる変動あり)
- 公式サイト:https://www.chateau-mouton-rothschild.com
2. 歴史
シャトー・ムートン・ロートシルトの歴史は17世紀に遡り、19世紀にはワイン生産で名声を得始めました。1855年の格付けでは第2級にランクされましたが、バロン・フィリップ・ド・ロートシルトの強い意志と努力により、1973年に唯一の格付け変更として第1級に昇格した特異な経緯を持ちます。
また、1950年代以降、毎年著名なアーティストにワインラベルのデザインを依頼する伝統が始まり、ピカソやシャガール、ダリなど世界的芸術家が参加したことで、ワインと芸術の融合を象徴するシャトーとしても知られています。
3. 栽培の特徴
シャトー・ムートン・ロートシルトのブドウ畑は約90ヘクタールで、カベルネ・ソーヴィニヨンが主体です。
- 土壌:砂利質の土壌で水はけが良く、ブドウの根が深く伸びることで凝縮した果実味をもたらす
- 気候:海洋性気候の影響を受け、温暖で安定した気候が高品質なブドウの生育を促進
- 栽培管理:厳格な選果と低収量管理、伝統的かつ科学的手法を組み合わせた丁寧な栽培
- 収穫:完熟を見極めた手摘み収穫
4. 醸造の特徴
ムートン・ロートシルトの醸造は、伝統を重んじながら最新技術も駆使しています。
- 醗酵:温度管理されたステンレスタンクでのアルコール発酵
- マセレーション:丁寧な果皮浸漬によりタンニンと色素を最適に抽出
- 樽熟成:新樽比率は約80%のフレンチオーク樽で18〜24ヶ月熟成。豊かな樽香と熟成による複雑味を実現
- ブレンド:主にカベルネ・ソーヴィニヨンを中心にメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドを調和良くブレンド
- 瓶詰め:厳格な品質検査を経てボトリングされる
5. 生産している主なワインリスト
ワイン名 | タイプ | 品種構成 | 熟成期間 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
シャトー・ムートン・ロートシルト(Château Mouton Rothschild) | 赤ワイン | カベルネ・ソーヴィニヨン主体、メルロー他 | 18〜24ヶ月樽熟成 | 複雑で深みのある力強い味わい、非常に長い余韻 |
ル・プティ・ムートン・ド・ムートン・ロートシルト(Le Petit Mouton de Mouton Rothschild) | 赤ワイン | メルロー主体、カベルネ・ソーヴィニヨン他 | 約12ヶ月樽熟成 | セカンドラベル、比較的早飲み向き |
エール・ダルジャン(Aile d’Argent) | 白ワイン | ソーヴィニヨン・ブラン主体 | ステンレスタンク熟成 | 高品質な白ワイン、フレッシュで爽やかな味わい |
6. コラム
- 🎨 世界的アーティストによるラベルデザイン
毎年著名なアーティストがラベルデザインを手掛け、ワインと芸術の融合を体現しています。歴代のラベルはコレクターズアイテムとしても人気です。 - 🏆 格付けの唯一の昇格シャトー
1855年格付けで第2級だったムートン・ロートシルトは1973年に唯一第1級に昇格。これはボルドーワイン史における特別な出来事です。 - 🌿 環境への取り組み
近年は環境保護と持続可能な栽培を推進し、土壌や生態系に配慮したブドウ栽培に注力しています。
7.シャトー・ムートン・ロートシルトのラベルアーティスト一覧(1945年〜)
ヴィンテージ年 | アーティスト名(英語名) | 備考 |
---|---|---|
1945年 | フィリップ・ジュリアン(Philippe Jullian) | Vマークで戦勝を祝福 |
1946年 | ジャン・ユーゴー(Jean Hugo) | 作家ヴィクトル・ユーゴーの孫 |
1947年 | ジャン・コクトー(Jean Cocteau) | 詩人・映画監督・画家としても有名 |
1948年 | マリー・ローランサン(Marie Laurencin) | パステル調の女性画で有名 |
1949年 | アンドレ・デラン(André Dignimont) | |
1950年 | ジョルジュ・モスコヴィッチ(Georges Mosse) | |
1951年 | 無地(アーティストなし) | フランスの喪に服する年(戦没者追悼) |
1952年 | ジャック・ヴィヨン(Jacques Villon) | キュビスムの画家 |
1953年 | ブラウル・オラリオ(Brault Orari) | |
1954年 | ジョルジュ・ブラック(Georges Braque) | キュビスムの創始者の1人 |
1955年 | ピエール・アレシンスキー(Pierre Alechinsky) | コブラ派 |
1956年 | 無地(霜害のため) | 収量低下のため通常ラベルのみ |
1957年 | モーリス・ブリアンション(Maurice Brianchon) | |
1958年 | セルジュ・ポリアコフ(Serge Poliakoff) | 抽象画家 |
1959年 | マティス(Henri Matisse) | フォーヴィスムの巨匠 |
1960年 | ジョルジュ・マチュー(Georges Mathieu) | タシスム(抽象表現) |
1961年 | マルク・シャガール(Marc Chagall) | 色彩豊かな幻想画で知られる |
1962年 | マヤ・プライス(Matta) | チリ出身のシュルレアリスト |
1963年 | ベルナール・デュフィ(Bernard Dufour) | |
1964年 | ドリアン・レガ(Dorian Leigh) | |
1965年 | ヴィクトル・ヴァザルリ(Victor Vasarely) | オプ・アートの創始者 |
1966年 | ピエール・スーラージュ(Pierre Soulages) | ブラック・ペインティング |
1967年 | セシル・ウェルズ(César Baldaccini) | 彫刻家。圧縮作品で有名 |
1968年 | バレンシアガ・ジョーン(Balthus) | |
1969年 | ヴァージニア・ソルデ(Vaquero Turcios) | スペイン人画家 |
1970年 | マルク・タビー(Marc Tobey) | アメリカの抽象表現主義 |
1971年 | セザール(César) | 圧縮彫刻の創始者 |
1972年 | ソル・ルウィット(Serge Poliakoff) | ミニマリズム |
1973年 | パブロ・ピカソ(Pablo Picasso) | バロン・フィリップが生前に依頼していた |
1974年 | アンディ・ウォーホル(Andy Warhol) | ポップアートの巨匠 |
1975年 | ヴィクトル・ミロスラフ(Victor Vasarely) | 再登場 |
1976年 | ピエール・アレシンスキー(Pierre Alechinsky) | 再登場 |
1977年 | ジャン=ポール・リオペル(Jean-Paul Riopelle) | |
1978年 | ジャン・コルテ(Jean Cortot) | 詩と絵画の融合 |
1979年 | グスタフ・クルーゲ(Hisao Domoto) | 日本人芸術家・堂本尚郎 |
1980年 | アル・エルドリッチ(Hans Erni) | |
1981年 | アリク・ブローシャ(Arik Brauer) | |
1982年 | ジョン・ヒューストン(John Huston) | 映画監督・画家 |
1983年 | ソール・スタインバーグ(Saul Steinberg) | |
1984年 | ヤコブ・スターク(Tápies) | |
1985年 | ポール・デルヴォー(Paul Delvaux) | |
1986年 | ベルナルド・ベルトルッチ(Bernard Séjourné) | |
1987年 | ハンス・ハルトゥング(Hans Hartung) | |
1988年 | キース・ヘリング(Keith Haring) | ストリートアートの先駆者 |
1989年 | ジョージ・バセリッツ(Georg Baselitz) | |
1990年 | フランシス・ベーコン(Francis Bacon) | 死後に使用許可された作品 |
1991年 | サミュエル・バク(Samuel Bak) | |
1992年 | アーサー・ボイド(Per Kirkeby) | |
1993年 | バルテュス(Balthus) | |
1994年 | カール・ラガーフェルド(Karel Appel) | |
1995年 | ハヴィエル・マリスカル(Antoni Tàpies) | |
1996年 | グチョン・バルチ(Gu Gan) | 中国人書道画家 |
1997年 | ニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle) | |
1998年 | レオ・ベルナール(R. Rauschenberg) | |
1999年 | レイモン・サヴィニャック(Raymond Savignac) | フランスのポスター作家 |
2000年 | 黄金のエンボス仕様(アーティストなし) | 特別な記念年 |
2001年 | ロベルト・マッタ(Robert Matta) | |
2002年 | イリヤ・カバコフ(Ilya Kabakov) | ロシア系アーティスト |
2003年 | フィリピーヌ・ド・ロートシルト(Philippine de Rothschild) | シャトー150周年を記念して自身がデザイン |
2004年 | HRH チャールズ皇太子(現国王チャールズ3世) | 水彩画家としても知られる |
2005年 | ジュゼッペ・ペノーネ(Giuseppe Penone) | イタリア人彫刻家 |
2006年 | リュック・フェリエール(Lucian Freud) | フロイトの孫 |
2007年 | ベルナール・ヴェネ(Bernar Venet) | |
2008年 | チェン・ユーフェイ(Xu Lei) | 中国現代美術家 |
2009年 | アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor) | 彫刻家 |
2010年 | ジェフ・クーンズ(Jeff Koons) | バロック的な金属彫刻で有名 |
2011年 | ギー・ド・ルージュモン(Guy de Rougemont) | |
2012年 | ミンジュン・ユエ(Miquel Barceló) | |
2013年 | イエ・グォユー(Gu Gan) | 中国水墨画 |
2014年 | デイヴィッド・ホックニー(David Hockney) | 英国現代画家 |
2015年 | ルディ・ルイ・ダグラス(Gerhard Richter) | |
2016年 | ウィリアム・ケントリッジ(William Kentridge) | |
2017年 | アンヌ・ミロン(Annette Messager) | |
2018年 | チファー・タン(Xu Bing) | |
2019年 | ピーター・ドイグ(Peter Doig) | |
2020年 | キャロル・バイヤー・セイガー(Carol Bayer Sager) | |
2021年 | セルジュ・ロディ(Serge Bloch) | イラストレーター |
2022年 | チップ・トーマス(Chip Thomas) | |
2023年 | バスキア(Jean-Michel Basquiat) | 死後にラベルに採用 |
まとめ
シャトー・ムートン・ロートシルトは、歴史的な名声と革新的な精神を併せ持つボルドー最高峰のワイナリーです。唯一の1855年格付け第1級昇格シャトーとしての地位、著名アーティストとのコラボラベル、卓越した品質の赤ワインは世界中のワイン愛好家を魅了し続けています。
その卓越した品質は伝統的な栽培・醸造技術と最新技術の融合によって支えられ、今後もボルドーを代表する名門ワイナリーとして輝き続けることでしょう。
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