1. 概要
トウリガ・ナシオナル(Touriga Nacional)は、ポルトガルを代表する赤ワイン用ブドウ品種であり、ポートワインや高品質なスティルワイン(非発泡性ワイン)の生産に欠かせない存在です。その名は、ポルトガル語で「国民的トウリガ」を意味し、まさにポルトガルの誇りともいえる品種です。
この品種は、深い色合いと豊富なタンニン、凝縮した果実味、そして華やかなフローラルアロマを備えており、長期熟成にも適しています。ポートワインの骨格を成すと同時に、ドウロやダンを中心に単一品種またはブレンドワインとしてもその魅力を発揮しています。
2. 名前の由来
「トウリガ・ナシオナル」という名前は、品種の起源に由来するとされています。「Touriga」は、かつてポルトガル北部のダン地方に存在した地名「Toureira」に由来するという説があり、地元品種であることを表す言葉です。
「Nacional(ナシオナル)」は、「国の」「国家的な」という意味であり、ポルトガルのアイデンティティを強調する意図が込められています。19世紀にはフィロキセラ禍のあとに再構築された畑で最も優れた品質をもたらす品種として認識され、国を代表する品種として「ナシオナル」と名づけられたと言われています。
3. 栽培
トウリガ・ナシオナルは、高品質なワインを生み出す品種ですが、栽培においては難しさも伴います。
栽培特性
- 萌芽(budding):早め
- 成熟(ripening):中〜晩熟
- 樹勢(vigour):非常に強い
- 収量(yield):非常に低い(粒が小さく、房も小さいため)
- 耐病性:比較的強いが、湿気の多い場所では灰色かびに注意が必要
- 気候適性:暑く乾燥した気候に適しており、ドウロやアレンテージョに最適
トウリガ・ナシオナルのブドウは粒が非常に小さく果皮が厚いため、色素とタンニンが豊富です。一方で、房の大きさも小さく、収量は非常に低くなるため、生産効率は高くありません。高品質ながらも希少性があるのはこのためです。
4. 味わい
トウリガ・ナシオナルのワインは、その凝縮感と芳香性の高さで知られています。ポートワインでは力強さと構造を、スティルワインでは香りの華やかさと熟成能力をもたらします。
一般的な特徴
- 色調:濃い紫〜黒みがかったルビー色
- 香り:スミレ、ブラックベリー、ブルーベリー、ブラックチェリー、リコリス、スパイス、杉、バルサミコ
- 味わい:豊富なタンニンと酸を持ち、ボリューム感がある。若いうちは力強く、熟成によって滑らかに変化する
熟成を経ることで、ドライフルーツ、革、タバコ、チョコレートなどの複雑な風味が加わり、特にオーク樽との相性も良好です。
5. 主な生産地
ポルトガル
- ドウロ(Douro)
トウリガ・ナシオナルの主要産地であり、ポートワインの中心地でもあります。シスト土壌の急斜面で栽培され、パワフルかつエレガントなスタイルのワインが生まれます。 - ダン(Dão)
トウリガ・ナシオナルの原産地とされる地域。標高が高く、花崗岩土壌により、より繊細で香り高いスタイルが特徴です。 - アレンテージョ(Alentejo)
より温暖で乾燥した地域。果実味が豊かでリッチな味わいのワインが造られます。
海外
近年では、スペイン、アメリカ(カリフォルニアやワシントン州)、南アフリカ、オーストラリアなどでも少量ながら栽培されています。これらの地域では「新世界型」の果実味が前面に出たスタイルが多く見られます。
6. 代表的なシノニム
トウリガ・ナシオナルはポルトガル国内で幅広く栽培されていますが、その呼び名には地域差があります。以下は代表的なシノニムです。
シノニム名 | 名称の由来・背景 | 主な生産地 |
---|---|---|
Touriga Nacional(トウリガ・ナシオナル) | 標準名。「国民的なトウリガ」という意味 | ポルトガル全土 |
Mortágua(モルターグア) | ダン地方の村の名に由来する古名 | ダン地方 |
Preto Mortágua(プレト・モルターグア) | 「黒いモルターグア」の意味。果皮の色に由来 | ダン地方 |
Bical Tinto(ビカル・ティント) | 「赤いビカル」という意味。ビカル(白品種)との混同から | 一部の古い資料に見られる |
おわりに
トウリガ・ナシオナルは、ポルトガルの伝統と革新の象徴とも言えるブドウ品種です。ポートワインを形づくる力強さと骨格、スティルワインで見せる華やかさと熟成力、その両方を併せ持つこの品種は、世界中のワイン愛好家からも高い評価を受けています。
近年は単一品種としての魅力も再発見されており、今後さらに注目度が高まることでしょう。ポルトガルワインに触れる際は、ぜひこの「国民的品種」に注目してみてください。
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