1. 概要
パロミノはスペイン南部、特にアンダルシア地方で広く栽培されている白ワイン用ブドウ品種です。世界的にはシェリー(Sherry)酒の生産に欠かせない主要品種として知られており、シェリーの個性ある風味を支える基盤となっています。
パロミノは香りは控えめながら、果実味のバランスが良く、酸味は低いものの骨格がしっかりしているため、シェリーの複雑な熟成過程に耐えうる耐久性が特徴です。伝統的にドライなシェリー「フィノ」や「マンサニージャ」の原料として用いられてきました。
また、近年ではスペイン本土の他の地域でもスティルワイン用に使われることが増えていますが、まだ国際的な知名度は高くありません。
2. 名前の由来
「パロミノ(Palomino)」はスペイン語で「小鳩(はと)」を意味します。これは、ブドウの実が熟す過程で黄色みを帯びた薄いベージュ色が、小鳩の羽毛の色に似ていることから名付けられたと考えられています。
また、歴史的には「パロミーノ・フィノ(Palomino Fino)」と呼ばれることもあり、シェリー生産における重要な区分の一つです。
3. 栽培
パロミノは主に地中海性気候の暖かく乾燥した地域でよく育ちます。耐暑性・耐乾燥性に優れ、夏の高温にも強いため、スペイン南部の乾燥した環境に非常に適しています。
栽培特性
特性 | 内容 |
---|---|
萌芽(budding) | 中程度から早め |
成熟(ripening) | 早熟から中程度 |
樹勢(vigour) | 強い |
収量(yield) | 多収量が可能だが品質を考慮して制限されることが多い |
耐病性 | 乾燥に強いが湿気にはやや弱い |
その他の特徴 | 果皮が薄く、傷みやすいが乾燥環境下で健康的に育つ |
収量が多いとワインの個性が薄くなるため、伝統的な生産者は収量制限を行い、良質なブドウを確保しています。
4. 味わい
パロミノは香りは控えめで、果実味も華やかさはあまりないのが特徴ですが、その分ワインの骨格やテクスチャーに優れています。シェリーの熟成過程で特有の香味が加わり、複雑で奥深い味わいへと変化します。
典型的な味わいの特徴
- 色調:淡いレモンイエローや麦わら色
- 香り:フレッシュなリンゴや洋ナシ、時にナッツやトースト香を伴う(特に熟成シェリーでは顕著)
- 味わい:ドライでミネラル感があり、酸味は低め。軽やかな苦みや塩気を感じることも
- ボディ:ライトからミディアムボディで、スティルワインはやや淡麗な印象
パロミノ単体のスティルワインは控えめな味わいですが、シェリーにおいては独特の「フロール」と呼ばれる酵母層の下で熟成されることで、非常に個性的で複雑な風味が生まれます。
5. 主な生産地
スペイン(Spain)
- ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerez de la Frontera)
パロミノはこの地域のシェリー生産の主役。フィノやマンサニージャといったドライタイプのシェリーに不可欠です。 - サンルーカル・デ・バラメーダ(Sanlúcar de Barrameda)
海風の影響で特に軽やかでフローラルなマンサニージャが造られます。 - モントゥリャ(Montilla)
ヘレスに次ぐシェリー類似酒の産地で、パロミノ主体のワインが生産されます。
その他の生産地
スペイン本土の他地域でもスティル白ワイン用として少量栽培されていますが、世界的にはシェリーの原料としての生産が圧倒的に多いです。
6. 代表的なシノニム
パロミノは比較的呼称が安定していますが、地域や文献によって以下のような別名や関連名が存在します。
シノニム名 | 名称の由来・背景 | 主な生産地 |
---|---|---|
Palomino Fino | 「細やかな小鳩」の意味で、より品質の良い区分 | スペイン(ヘレス地方) |
Listán Blanco | カナリア諸島での呼称 | スペイン(カナリア諸島) |
Palomino de Jerez | ヘレスのパロミノを指す呼称 | スペイン(ヘレス地方) |
おわりに
パロミノは、シェリーを語るうえで欠かせない伝統的かつ重要な白ワイン用ブドウ品種です。華やかな香りは少ないものの、シェリー独特の熟成香やフロール酵母による味わいを支える骨格として、非常に価値ある存在です。
スティルワインとしての可能性も広がりつつあるので、シェリー以外のパロミノワインにもぜひ注目してみてください。伝統的なシェリーと合わせて楽しむことで、スペインワインの奥深さをより実感できることでしょう。
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