1. 概要
トウリガ・フランカ(Touriga Franca)は、ポルトガルを代表する黒ブドウ品種のひとつで、主にドウロ地方やダン地方で栽培されています。しばしばポルトガルの最上級品種とされる「トウリガ・ナシオナル」と混同されがちですが、トウリガ・フランカはより栽培しやすく、果皮が厚く、安定した収穫量を持つ点で異なります。
この品種は、ポートワインのブレンドに欠かせない存在であり、またスティルワイン(非酒精強化ワイン)においても、芳醇で滑らかな味わいが高く評価されています。濃厚な果実味と心地よい酸、繊細なタンニンを兼ね備えた、非常にバランスの良いブドウ品種です。
2. 名前の由来
「トウリガ(Touriga)」という名前はポルトガルにおけるブドウ品種の系統名に近く、複数の品種名に共通しています。「フランカ(Franca)」という言葉は、明確な語源は定かではありませんが、「ナシオナル(=国民的)」に対する「フランカ(=自由な、外来の)」という対比を示す可能性があります。
かつては「トウリガ・フランセーザ(Touriga Francesa)」という名前でも知られていましたが、これは「フランスのトウリガ」と誤解される可能性があるため、現在では原産地であるポルトガルでは「トウリガ・フランカ」が正式な呼称として広く用いられています。
3. 栽培
トウリガ・フランカは、ポルトガルの暑く乾燥した気候に適した品種で、特にドウロ川流域のテラス式ブドウ畑において重要な役割を果たしています。日照を好み、果皮が厚く、病気にも比較的強いため、ポルトガルの過酷な環境下でも安定した品質と収量が期待できます。
栽培特性
特性 | 内容 |
---|---|
萌芽(budding) | やや遅め |
成熟(ripening) | 中庸〜やや晩熟(収穫は9月中旬〜下旬) |
樹勢(vigour) | 中程度〜やや強め |
収量(yield) | 安定して高め(トウリガ・ナシオナルよりも多収) |
耐病性 | べと病やうどんこ病に比較的強い |
栽培の難易度 | 高温乾燥地に強く、急斜面でも栽培可能 |
この品種は、標高のあるドウロ・スペリオールや、花崗岩質・スレート土壌によって引き締まった酸としなやかなタンニンを備え、ワインに力強さとエレガンスをもたらします。
4. 味わい
トウリガ・フランカは、豊かな香りと滑らかな口当たりが特徴で、ブラックチェリーやブラックベリー、すみれの花、スパイスのような複雑な風味を備えています。熟成ポテンシャルもあり、長期熟成によってレザーやタバコ、ドライフルーツなどの複雑な熟成香が現れることもあります。
味わいの特徴
- 色調:深みのあるガーネット〜紫
- 香り:ブラックチェリー、ブラックベリー、すみれ、スミレ、黒胡椒、チョコレート
- 味わい:果実味が豊かで、酸はしっかり、タンニンはきめ細かくしなやか
- ボディ:中〜フルボディ
- 熟成:オーク熟成との相性が良く、10年以上の熟成に耐えるポテンシャルあり
ポートワインではストラクチャーと香りのバランスを整える要素として、スティルワインでは単一品種としての存在感を放つ高品質な赤ワインに仕上がります。
5. 主な生産地
トウリガ・フランカは、主にポルトガル国内で栽培されており、特に以下の地域が代表的な産地です。
ドウロ(Douro)
世界遺産にも登録されているドウロ渓谷の急斜面に広がるブドウ畑では、トウリガ・ナシオナルやティンタ・ロリスとともに、トウリガ・フランカはポートワインの骨格を成す主要品種として使われています。ドウロ・スペリオールでは、より凝縮度の高い果実味をもったワインが生まれます。
ダン(Dão)
ダン地方では、標高の高さと花崗岩質の土壌の影響により、よりエレガントで酸の効いたスタイルの赤ワインが生まれます。ここでもトウリガ・フランカは主要品種の一つです。
アレンテージョ(Alentejo)
温暖で乾燥したアレンテージョ地方でも、この品種は重要な構成要素です。果実味に富み、飲み心地の良い赤ワインに仕上がります。
6. 代表的なシノニム
トウリガ・フランカにはいくつかのシノニム(別名)があります。以下に代表的なものをまとめました。
シノニム名 | 名称の由来または背景 | 主な生産地 |
---|---|---|
Touriga Francesa(トウリガ・フランセーザ) | かつての一般的名称。「フランスのトウリガ」と誤解されやすいため変更された。 | ドウロ、ダン |
Esgana Cão Tinto(エスガナ・カン・ティント) | ごく一部地域での古い呼称。「犬を絞めるほどの渋さ」が語源 | ドウロ(ほぼ使用されない) |
Touriga Francesca(トウリガ・フランセスカ) | 表記の揺れによる誤用 | 文献中に一部あり |
現在では「Touriga Franca(トウリガ・フランカ)」の名称が最も広く使用され、ポルトガルの公式品種登録にもこの名称で記載されています。
おわりに
トウリガ・フランカは、ポルトガルが誇るブドウ品種のひとつであり、芳醇な香りと果実味、滑らかなタンニン、しっかりとした構造を併せ持つ魅力的な赤ワインを生み出します。ポートワインだけでなく、スティルワインとしてもその品質の高さが再評価されており、世界中のワイン愛好家から注目されています。
トウリガ・ナシオナルと並ぶ「ポルトガル赤ワインの双璧」として、ぜひ一度その味わいを体験してみてください。地中海料理やグリルした肉料理とも相性が良く、豊かな食卓を彩る1本になることでしょう。
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