プティ・マンサン(Petit Manseng)│南西フランス発、香り高き白ワイン用ブドウ品種

プティ・マンサン(Petit Manseng)│南西フランス発、香り高き白ワイン用ブドウ品種
目次

1. 概要

プティ・マンサン(Petit Manseng)は、フランス南西部、特にピレネー山脈に近いジュランソン(Jurançon)やイロレギ(Irouléguy)といった産地で栽培されている白ワイン用のブドウ品種です。主に甘口ワインに用いられますが、高い酸度と香り高さを生かした辛口ワインも造られています。

その名の通り「小さな果粒(Petit)」が特徴で、果皮が厚く、貴腐菌(ボトリティス)ではなく「パスリヤージュ(Passerillage/樹上乾燥)」によって糖度を高めるという、独自の甘口ワイン製法で知られています。糖度が高く酸も豊かで、非常にバランスの取れた甘口ワインができることから、デザートワインファンには根強い人気があります。

さらに近年では、辛口スタイルやスパークリングワインにも使われることが増え、その品質の高さと個性に注目が集まっています。

2. 名前の由来

「Petit Manseng(プティ・マンサン)」という名称は、「小さい粒のマンサン(Manseng)」という意味です。「マンサン」はバスク地方やガスコーニュ地方に古くから存在するブドウ品種の系統を指しており、同じくこの系統に属する「グロ・マンサン(Gros Manseng)」と対になる形で名付けられました。

「Petit」はその小粒の果実を意味しており、この小さな果粒こそが濃縮感と芳香をもたらす要因とされています。

3. 栽培

プティ・マンサンは、栽培がやや難しいブドウ品種として知られています。果粒が小さく果皮が厚いため病気には比較的強いものの、成熟が遅く、秋の天候が重要な鍵を握ります。

  • 萌芽(budding):やや早め。遅霜の影響を受けやすい地域では注意が必要です。
  • 成熟(ripening):晩熟。10月末から11月初旬にかけて収穫されることもあります。
  • 樹勢(vigour):中程度から強め。剪定や収量管理が品質に直結します。
  • 収量(yield):非常に低め。収穫量を抑えることで、より濃縮した果実が得られます。
  • 耐病性:灰色かび病やうどんこ病にはやや強い傾向があります。
  • 気候適性:温暖で日照が多い地域が理想ですが、収穫期に雨が少ないことも重要です。

特に、ジュランソン地区では「樹上で果実を乾燥させる(passerillage)」ことで糖度を高めた甘口ワインが作られています。貴腐菌ではなく、あくまで自然乾燥で濃縮されるため、純粋な果実味が保たれます。

4. 味わい

プティ・マンサンは、香り高く酸味がしっかりとしたワインを生み出す品種で、甘口でも辛口でも風味の奥行きが感じられます。特に甘口スタイルでは、糖度と酸のバランスの良さが際立ち、長期熟成にも耐える品質を持っています。

  • 外観:淡いイエローからゴールド。熟成とともに琥珀色に近づきます。
  • 香り:白桃、アプリコット、蜂蜜、スパイス、カリン、オレンジピール、トロピカルフルーツなど。熟成によってドライフルーツやナッツのニュアンスも現れます。
  • 味わい:甘口では豊かな糖度ときれいな酸味のコントラストが特徴的。辛口では柑橘の苦みやスパイス感も加わり、ボリューム感のあるワインになります。
  • 熟成適性:甘口スタイルは長期熟成型。10年以上熟成できるものもあります。辛口でも熟成によって複雑味が増します。
  • ペアリング:甘口ならブルーチーズ、フォアグラ、アップルタルトなど。辛口なら魚のグリルや白身肉、スパイス料理ともよく合います。

5. 主な生産地

フランス

  • ジュランソン(Jurançon/ジュランソン)
     プティ・マンサンの聖地とも言える地域。特に「ジュランソン・モワルー(やや甘口)」や「ジュランソン・ドゥー(甘口)」のカテゴリーで使われます。
  • ジュランソン・セック(Jurançon Sec)
     辛口スタイルも人気が高まりつつあり、同地域ではグロ・マンサンとのブレンドや単一品種で造られるものもあります。
  • イロレギ(Irouléguy/イロレギ)
     バスク地方の山岳地帯で、少量ながら栽培されています。冷涼な気候により酸がさらに際立ちます。

その他の国・地域

  • アメリカ(特にカリフォルニア州、バージニア州)
     一部のワイナリーが実験的に導入。辛口スタイルが主で、ユニークな個性を評価する声も。
  • オーストラリア
     小規模ながら栽培が行われており、主に辛口スタイルの白ワインが造られています。
  • ウルグアイ、アルゼンチン
     南米の高地でも試験的に導入が進められています。

6. 代表的なシノニム

プティ・マンサンは、地域や歴史的背景によりいくつかの別名やシノニムで呼ばれることがあります。以下に主なものを表形式でまとめました。

シノニム名名称の由来・背景主な生産地
Petit Mansenc(プティ・マンセンク)古い文献で見られる綴り違いのバリエーションフランス南西部
Ichiriota Tipia(イチリオタ・ティピア)バスク語に由来。イロレギ周辺での呼称。バスク地方(イロレギ)
Manseng Petit(マンセング・プティ)単語順が逆になった表現。旧資料でまれに使用される。フランス(ジュランソン)
Escribet(エスクリベ)かつて南西フランスの一部で使われていたが、現在はほぼ使われない。ガスコーニュ、ベアルン地域など

おわりに

プティ・マンサンは、果粒の小ささと糖度の高さ、そして際立った酸味を活かして、世界でも珍しいスタイルの甘口・辛口白ワインを生み出すブドウ品種です。フランス南西部の豊かな自然と伝統的な醸造技術のもとで磨かれてきたこの品種は、デザートワインの枠にとどまらず、新たな可能性を見せつつあります。

もし甘くて酸の効いた上品な白ワインをお探しであれば、プティ・マンサンを使ったワインは間違いなく試す価値があります。ジュランソン産の一本を選んで、そのバランスの妙を味わってみてください。

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この記事を書いた人

とある企業の会社員
突然ワインに目覚めて、その奥深さにハマる。
WSET Lv.3のほか、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナルも保有し、現在は、WSET Diploma(WSET ディプロマ)に挑戦中。
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