マルヴァジア(Malvasia)│古代から愛される芳香と多様性をもつブドウ品種群

マルヴァジア(Malvasia)│古代から愛される芳香と多様性をもつブドウ品種群
目次

1. 概要

マルヴァジア(Malvasia)は、主に白ワイン用として使用されるアロマティックなブドウ品種の総称であり、実際にはさまざまなクローンや亜種が存在する「品種群(group of varieties)」です。地中海沿岸やカナリア諸島、ポルトガル、スペイン、イタリアなどを中心に栽培され、白ワインはもちろん、赤ワイン、スパークリングワイン、甘口ワイン(特に酒精強化)にも用いられています。

マルヴァジアから造られるワインは、豊かなアロマとオイリーな質感、そして花や蜂蜜のような甘やかな香りが特徴です。地域やスタイルによってその表現は千差万別であり、古くから国際的に高い評価を受けてきました。

特にイタリアやポルトガルでは、「Malvasia Bianca(白)」や「Malvasia Nera(黒)」といった名称で多数の土着品種が存在し、それぞれ独自の特徴を持っています。

2. 名前の由来

「マルヴァジア(Malvasia)」という名称の起源には諸説ありますが、有力なのはギリシャのペロポネソス半島にある港町「モネンヴァシア(Monemvasia)」に由来する説です。中世のヴェネツィア共和国がこの地を「Malvasia」と呼び、地中海交易の中心として発展したことが背景にあります。

ヴェネツィア商人は、ギリシャのモネンヴァシア港から高品質の甘口ワインをヨーロッパ各地へと輸出していました。このワインが「マルヴァジア」として知られるようになり、やがてこの名を冠したブドウ品種がヨーロッパ中に広がっていったと考えられています。

そのため「マルヴァジア」は元々はワインのスタイルを表す言葉であり、後にブドウの品種名として定着したという歴史を持ちます。

3. 栽培

マルヴァジアは、栽培環境に応じてさまざまなバリエーションが存在し、特定のクローンが特定の土地に最適化されている点が特徴です。

栽培特性(一般的な傾向)

  • 萌芽(budding):中程度で、春の霜には比較的強いです。
  • 成熟(ripening):多くの亜種が早め〜中程度に成熟します。甘口用では遅摘みも可能です。
  • 樹勢(vigour):中程度〜やや高めで、豊かな葉を持ちます。
  • 収量(yield):品種によって異なりますが、比較的高収量な傾向にあります。
  • 病害耐性:灰色かび病やべと病にやや弱いため、乾燥した風通しのよい気候が好まれます。
  • 気候適性:温暖〜暑い気候に向いており、乾燥した環境での栽培に適しています。

主要なクローン

  • Malvasia Bianca di Candia(マルヴァジア・ビアンカ・ディ・カンディア):イタリア中部・南部で広く栽培。香り高くフルーティな白ワイン向け。
  • Malvasia delle Lipari(マルヴァジア・デッレ・リパリ):シチリアのエオリア諸島特産。甘口ワイン用。
  • Malvasia Fina(マルヴァジア・フィナ):ポルトガルで使用される酒精強化ワイン向けの品種。
  • Malvasia Nera(マルヴァジア・ネーラ):赤ワイン用のマルヴァジアで、プーリアやエミリア=ロマーニャに多く見られます。

4. 味わい

マルヴァジアのワインは、そのスタイルにより味わいが大きく異なりますが、以下のような共通点があります。

  • 白ワイン:花やマスカット、桃、洋梨、蜜、オレンジの皮などの芳香があり、丸みのある口当たりと中程度の酸が特徴です。オイリーなテクスチャーを持つこともあります。
  • 赤ワイン:軽やかなタンニンとベリー系果実の香り、そして若干のスパイス感を持つ果実味重視のスタイル。
  • 甘口ワイン:干しブドウや蜂蜜、ドライアプリコット、キャラメルなどの香りを持ち、リッチで長い余韻を持つものが多く見られます。
  • スパークリング:イタリアでは微発泡やフリッツァンテとして使用され、爽やかな甘さとフローラルな香りが魅力です。

5. 主な生産地

マルヴァジアは地中海沿岸を中心に、非常に広い地域で栽培されています。

イタリア

  • フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州:辛口白ワイン用として「マルヴァジア・イストリアーナ」が有名。
  • エミリア=ロマーニャ州:スパークリングワイン(微発泡)で用いられ、軽快な飲み口。
  • シチリア州・エオリア諸島:甘口のマルヴァジア・デッレ・リパリDOCは世界的にも高評価。
  • プーリア州:赤ワイン用の「マルヴァジア・ネーラ」が主にネグロアマーロとのブレンドに使用されます。

ポルトガル

  • ドウロ:ポートワインのブレンド品種のひとつ「マルヴァジア・フィナ」が使用されます。
  • マデイラ島:酒精強化甘口ワイン「マデイラ」のスタイルの一つ「Malmsey(マルムジー)」はマルヴァジア種から造られます。

スペイン

  • カナリア諸島:マルヴァジア・ボルカニカ(Malvasía Volcánica)など、火山性土壌とマルヴァジアの個性が融合した甘口・辛口ワインが造られます。

ギリシャ

  • ペロポネソス地方・モネンヴァシア:原点ともいえる地で、再興を目指す動きがあります。モネンヴァシアという同名品種も存在します。

6. 代表的なシノニム

マルヴァジアは、その多様性ゆえに数多くの別名(シノニム)を持ち、地域ごとに異なる名称で呼ばれることがあります。

シノニム名名称の由来・背景主な生産地
Malmsey(マルムジー)英語での呼称。マデイラワインにおける最も甘口のスタイル。ポルトガル・マデイラ島
Malvasia Bianca di Candia(カンディアのマルヴァジア)ギリシャ・クレタ島(旧称カンディア)に由来。イタリア中部・南部
Malvasia delle Lipari(リパリのマルヴァジア)エオリア諸島リパリ島原産。高貴な甘口ワインを生む。イタリア・シチリア
Malvasia Fina(フィナ)「上質なマルヴァジア」の意。ポートワインにも使用。ポルトガル・ドウロ、ダン
Malvasía Volcánica(ボルカニカ)カナリア諸島原産の亜種。火山性土壌で栽培される。スペイン・カナリア諸島
Malvoisie(マルヴォワジ)フランス語表記。サヴォワやコルス島などで使用される。フランス
Monemvasia(モネンヴァシア)ギリシャ原産の別品種だが、マルヴァジアと混同されることもある。ギリシャ・ペロポネソス地方

おわりに

マルヴァジアは、その豊かな香りと多様性から、古代から現代に至るまで多くのワインラヴァーを魅了してきたブドウ品種です。その土地ごとの個性が色濃く反映される品種であり、イタリアやポルトガル、スペインなどの地場ワイン文化を知るうえでも欠かせません。

辛口、甘口、スパークリング、赤ワインまで、幅広いスタイルを持つマルヴァジアの世界に、ぜひ一度足を踏み入れてみてください。

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この記事を書いた人

とある企業の会社員
突然ワインに目覚めて、その奥深さにハマる。
WSET Lv.3のほか、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナルも保有し、現在は、WSET Diploma(WSET ディプロマ)に挑戦中。
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