カルメネール(Carménère)│チリの看板品種として復活を遂げた赤ワイン用ブドウ

カルメネール(Carménère)│チリの看板品種として復活を遂げた赤ワイン用ブドウ
目次

1. 概要

カルメネール(Carménère)は、もともとフランス・ボルドー原産の赤ワイン用ブドウ品種ですが、現在ではチリを代表する品種として世界中にその名を広めています。深い色合いと黒系果実、スパイス、ハーブの風味を兼ね備え、力強くもエレガントな赤ワインを生み出します。

19世紀のフィロキセラ禍によってフランスではほぼ絶滅したかに見えたカルメネールですが、チリの畑でメルローと間違われながら生き延びていたというドラマティックな歴史を持っています。1990年代になってDNA解析によって正体が判明し、現在ではチリの“奇跡のブドウ”として復権を果たしました。

タンニンはやや柔らかく、ハーブ感が強いことから、ワイン初心者でも比較的飲みやすいスタイルが多く、チリワインの魅力を語るうえで欠かせない品種といえます。

2. 名前の由来

「カルメネール(Carménère)」という名称は、果皮の濃い赤紫色が、カーマイン(carmine)=深紅の色合いを思わせることに由来しています。

フランスでは長らくボルドーの補助品種として使用されてきましたが、前述のとおり19世紀末のフィロキセラにより壊滅的打撃を受け、植え直しが進んだ際には栽培されなくなってしまいました。

ところが、チリでは「メルロー」として導入された苗木の中にカルメネールが含まれており、長年気づかれないまま栽培され続けていたのです。その事実が1994年にフランスのブドウ学者ジャン・ミシェル・ブスケ博士により明らかになり、以後チリはカルメネールの「第二の故郷」として国際的な評価を高めていきます。

3. 栽培

カルメネールは、温暖で乾燥した気候に適応する品種です。ただし栽培にはやや注意が必要で、気候条件や栽培管理の差が品質に大きな影響を与えます。

  • 萌芽(budding):遅め。春先の霜には比較的強いですが、生育期間は長めです。
  • 成熟(ripening):非常に遅い。10月後半から11月初旬にようやく完熟します。
  • 樹勢(vigour):中程度〜やや高め。剪定による管理が必要です。
  • 収量(yield):高収量になりやすいが、品質重視なら収量制限が有効です。
  • 病害への耐性:うどんこ病やベト病にやや弱いですが、乾燥した気候なら抑えやすいです。
  • 適した気候・土壌:日照時間が長く、乾燥して風通しの良い立地が理想。粘土質〜ローム質の水はけのよい土壌を好みます。

カルメネールは完熟しないと青臭さ(ピーマン様の香り)が強く出るため、遅摘みと収量制限、適切な畑選びが極めて重要です。このため、日照時間に恵まれたチリはカルメネール栽培に非常に適しているとされています。

4. 味わい

カルメネールから造られるワインは、果実味、スパイス感、ハーブのニュアンスが複雑に絡み合う個性的なスタイルが魅力です。

  • 外観:濃い紫がかったルビー色で、グラスの向こうが見えないほど。
  • 香り:熟したブラックチェリーやプラムに加え、ブラックペッパー、チョコレート、タバコ、ミント、ピーマン様の香りが複雑に感じられます。
  • 味わい:中〜フルボディで、果実味が豊か。タンニンはメルローほど滑らかではないが、しっかりとしつつも緻密で上品。酸は中程度でバランスが取れており、ハーブ感とスパイス感が余韻に残ります。

カルメネールは、スパイスやハーブを使った料理と相性がよく、ラム肉、スパイシーなチキン、ミートタコスなどとのマリアージュもおすすめです。また、熟成によってタバコや土っぽいニュアンスが強まり、飲みごたえのある赤ワインへと変化していきます。

5. 主な生産地

チリ

現在、カルメネールの最大の生産国はチリです。特に以下の地域が有名です。

  • セントラル・ヴァレー(Central Valley):最も広範に栽培されているエリア。コルチャグア・ヴァレーやマイポ・ヴァレーが代表格です。
  • コルチャグア・ヴァレー(Colchagua Valley):日照が豊富で温暖、カルメネールの熟成に理想的な気候条件を持つ。高品質ワインの生産地。
  • カチャポアル・ヴァレー(Cachapoal Valley):力強くスパイシーなスタイルが特徴。

チリのカルメネールは、かつてはメルローの名で輸出されていましたが、現在は品種としてしっかりとラベリングされ、世界的にも評価を高めています。

フランス

かつてはボルドー地方で広く栽培されていましたが、フィロキセラ禍の後、栽培は激減しました。現在でも、ブレンド用の補助品種として少量栽培されている程度で、単一品種ワインはほとんど見られません。

その他の国

カルメネールは、チリ以外の南米(アルゼンチン、ブラジル)やイタリア北部、カリフォルニア州、ニュージーランドなどでも少量ながら栽培されています。しかし、いずれの地域でもチリほどの成功例は見られず、カルメネール=チリの印象が強くなっています

6. 代表的なシノニム

カルメネールは、地域や時代によってさまざまな別名で呼ばれてきました。以下に代表的なシノニムを一覧でご紹介します。

シノニム名名称の由来・背景主な生産地
Grande Vidure(グランド・ヴィデュール)ボルドーで使用された古い呼称。かつてはカベルネ・フランと混同されていた。フランス(ボルドー)
Vidure(ヴィデュール)フランスでの伝統的な別名。剪定しやすい樹形「ヴィド=切る」に由来。フランス(ボルドー)
Cabernet Gernischt(カベルネ・ゲルニシュト)中国での誤認による名称。カルメネールとの類似が指摘されている。中国(山東省など)

おわりに

カルメネールは、その数奇な歴史とチリでの復活劇によって、**“失われたボルドー品種の奇跡の復活”**とも称される存在です。深い果実味とハーブ感を持ち、ワイン初心者から玄人まで幅広く楽しめる魅力を備えています。

特にチリ産のカルメネールは、品質に対して価格も手頃で、コストパフォーマンスが高いため、これからワインを学びたい方や日常の食卓で赤ワインを楽しみたい方にもおすすめです。

ぜひ、次回のワイン選びでは「カルメネール」という名を手に取り、その奥深い味わいに触れてみてください。

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この記事を書いた人

とある企業の会社員
突然ワインに目覚めて、その奥深さにハマる。
WSET Lv.3のほか、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナルも保有し、現在は、WSET Diploma(WSET ディプロマ)に挑戦中。
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