1.概要
甲州(こうしゅう)は、日本原産の白ワイン用ブドウ品種であり、日本国内で最も古くから栽培されてきた品種の一つです。主に山梨県甲州市や勝沼町で栽培されており、ワイン産地としても世界的な注目を集めています。
その味わいは非常に繊細で、穏やかな酸味とほのかな果実味、そして柑橘系や白い花を思わせるアロマが特徴です。また、寿司や天ぷらなど和食との相性も良く、日本料理に合うワインとしても高く評価されています。
近年では、甲州ワインの品質が飛躍的に向上しており、国際的なコンクールでの受賞歴も増加しています。さらに、2010年には日本の品種として初めてOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に登録され、世界的にも認められるブドウ品種となりました。
2.名前の由来
「甲州」という名前は、現在の山梨県にあたる旧国名「甲斐国(かいのくに)」に由来しています。この地域では古くからブドウの栽培が盛んであり、甲州は日本の風土に適応した在来種として長い歴史を持ちます。
ブドウの起源については、中国や中央アジア由来の説もありますが、詳細は明らかになっていません。ただし、DNA解析によるとヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラ種に分類されており、外来種と日本在来種の自然交雑により誕生した可能性が高いとされています。
3.栽培
■発芽と成熟
- 発芽時期: 中庸(4月中旬前後)
- 成熟時期: 中~晩熟(10月初旬〜中旬が収穫のピーク)
■栽培の特徴
- 病害への耐性: 比較的高く、灰色カビ病や晩腐病への耐性がある
- 降水量が多い日本の気候にも適応しやすい
■果皮と収量
- 果皮はやや厚めで、ピンクがかったグレー色(グリ系)
- 高収量品種であるが、品質志向の生産者は収量制限によって凝縮感を高める
■栽培地域
- 主に山梨県(特に勝沼、塩山、甲府)、一部長野県、山形県、北海道などでも栽培
- 海外では、イギリスやドイツの一部ワイナリーが小規模に実験栽培中
4.味わい
甲州のワインは、繊細で穏やかな酸味とすっきりとした果実味を持ち、アルコール度数も控えめです。軽やかなボディと透明感のある風味が特徴で、派手さはありませんが、滋味深い味わいを楽しめます。
■主な香り・風味
- 果実: グレープフルーツ、柚子、カリン、青リンゴ
- 花: 白い花、ユリ、カモミール
- ミネラル・その他: 火打石、濡れた石、ほのかな塩味、旨味
■味わいの構造
- 酸味: 穏やかで上品
- アルコール: 11〜12%程度と控えめ
- ボディ: 軽め〜中程度
- 苦味と渋みが控えめなため、食中酒として優れる
■醸造スタイルの多様性
- ステンレスタンク発酵: フレッシュでクリーンなスタイル
- シュール・リー熟成: 旨味と複雑味が加わる
- 樽熟成: ナッツやトーストの風味が加わりリッチな仕上がりに
- オレンジワイン(マセラシオン): 近年注目される、果皮ごと発酵させたスタイルも人気
5.主な生産地
■日本(山梨県)
- 勝沼町(こうしゅうし・かつぬまちょう): 日本ワイン発祥の地ともされる代表的な産地。甲州ワインの中心地
- 塩山(えんざん)・甲府市周辺: 古くからの栽培地域。やや標高が高く酸が残りやすい
- 山梨市・笛吹市: 畑の標高や日照条件がワインに多様性をもたらす
■長野県、山形県、北海道
- 高冷地や火山灰土壌での栽培によって、よりシャープでミネラル感あるスタイルに
- 北海道産甲州は近年注目されており、収穫期の寒暖差が風味を引き締めます
6.代表的なシノニム(別名)
シノニム名 | 名称の由来・背景 | 主な生産地 |
---|---|---|
Koshu(こうしゅう) | 国際的な表記。OIV登録名としても採用 | 日本、イギリスなど |
甲州三尺(こうしゅうさんじゃく) | 江戸時代から使われた古称。ブドウの房が「三尺(約90cm)」に達することから名付けられた | 山梨県を中心とする |
まとめ
甲州は、日本の風土と食文化が生んだ、唯一無二のワイン用ブドウ品種です。その繊細で調和のとれた味わいは、洋食のみならず和食とも高い親和性を持ち、**「世界に誇る日本の白ワイン」**として国際的にも評価されています。
特に山梨県では、代々受け継がれてきた栽培技術と近代醸造の融合により、高品質な甲州ワインが次々と誕生しています。普段は日本酒を好む方にも、ぜひ一度味わっていただきたいワインです。
コメント